正常な世界にて
するとお金持ちは、お金よりも命を大事にしていることになるね。いや、お金に余裕があるから、命を大事にする余裕があるだけかな?
それを考え始めたところで、高山さんの家が前方に見えてきた。家の前には既に、クラスメートが半数ぐらい集まっていた。腕時計を見る。集合時刻までは時間が十分にある。
こんなに余裕を持って、到着できたのは久しぶりだ。クラスメートたちも、久々に感じているらしく、私や坂本君を物珍し気に見てきた。「時間にルーズなカップル」と、しっかり思われているからね……。
今日はもう嫌な事は起きてほしくないので、これが良い前兆であることを、精一杯願う私。
ところが、あの駅の方向から、パトカーや救急車のサイレンが聞こえてきた。私の恐怖心を煽るかの如く、音が私の耳に突入してくる……。感じたばかりの前兆が、一瞬でどこかへ消し飛ばされた。
集合時刻のきっかり1分前。高山さんが、家の大きな門を開け放ち、集合済みの私たちの前へ現れた。表面が胴で覆われた鉄柵の門で、向こう側はお庭だ。整然とした芝生や立派な木々が、その広い庭で雄大さを誇示している。クラスメートの何人かが、彼女の背後に広がる立派な庭を見て、驚嘆の表情を浮かべる。まあ、そのうちの何人か(中途半端な小金持ち)の表情には、嫉妬も含まれていたけどね。
実は、私が彼女の家にお邪魔するのは、今回が初めてだ。だから、驚嘆や嫉妬を感じてもおかしくない。しかし、私の脳が「その感情を使うのは後にしろ」と告げているようだ。彼女への警戒で、無邪気に過ごすなんて無理らしい。ただでさえ普通に暮らせないのに、これは辛いね……。