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正常な世界にて

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「発達障害だよ。効率主義的な現代社会で生きているから、疲れがヤバくてね……」
坂本君はそう言うと、いかにも辛そうに左肩を押さえてみせた。さっきまで元気だったじゃないか……。
「ほら立って! あそこの知的障害も元気に立ってるよ!」
私はそう言うと、坂本君を無理やり立ち上がらせる。あの知的障害の男性は、クリスマス風メロディを相変わらず歌い続けている。
「あいつらは、いつも幸せな世界にいるから平気なんだよ!」
坂本君の手を引き、ドア横へ連行した。当然、近くの人たちにチラチラと見られちゃったけど、あのまま平然と座っているわけにはいかないからね。

 妊婦は私に対して「すいません」とだけ言うと、空いた優先席に座る。もう一人分の空席は、連れの男の子用だ。
 ……ところが、隣りの車両からジジイが出現した。彼は、座ろうとしていた男の子を脇へ押しやると、自分がその席に堂々と座りこんだ……。妊婦や男の子はもちろん、私も含め3人がそのジジイを睨む。だけど、そのジジイは平然と座り続けている。おまけに、「フンッ」と鼻を鳴らされてしまった。
 つい今まで自分が座っていたとはいえ、私はこのジジイに文句を言わずにいられなかった。一歩踏み出した私。
「待て待て」
そこで坂本君に左肩を掴まれた。事なかれ主義的に引き止められた形だ。振り返ると、坂本君が自分に人差し指を向けていた。彼が代わりに、このジジイに注意してくれるらしいけど、さっそく嫌な予感が湧き上がった……。
 そして、その予感は3秒後に正解へ変化し始める。なにしろ、躊躇することなく、スピーカーみたいな知的障害者の元へ向かったものだから。あの知的障害者を、ろくでもない事に活用するつもりなのは明白だね……。

「よう、ドラゴン野郎。ちょっと教えてやりたいことあってさー」
「ジングルベルがやって、んんっ?」
坂本君にいきなり話しかけた知的障害者ことドラゴン野郎は、メロディー再生をやめて、彼のほうをじっと見る。たぶん初対面なのに、馴れ馴れしく話しかける彼は、コミュニケーション能力が凄まじく高いだろうね。障害者手帳なんかなくても、社会でなんとかやっていけそうだ。
「あそこにいるジイさんな、カープファンらしいぞ。しかも、ドラゴンズの事をバカにしやがった」
無茶苦茶な事をドラゴン野郎に吹き込む坂本君……。
 だけど、純粋なドラゴン野郎は、それを信じてくれたらしい。比較的大きな顔を、一気に紅潮させていく。少し離れたここからでも、怒りの熱気を感じるほどだ。その熱気を強く感じているはずの坂本君は、サッとドラゴン野郎から離れる。
 ああっ、彼が解決することを許すんじゃなかった……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん