正常な世界にて
教室に入ると、教卓にいる高山が最初に目に入る。彼女はクラスメートたちに、呼びかけていた。彼女はこちらを一瞬だけチラ見すると、また呼びかけを再開した。私と坂本君は、自席へ向かいつつ、聞き耳を立てる。さすがに、何も気にしないわけにはいかないからね。
――どうやら、このクラスのみんなでクリスマスパーティをやろうという話だ。教室やレンタルスペースでそれをやるのかと思っていると、なんと高山さんの家でやるらしいじゃないか……。私と坂本君は、高山さんの「裏の顔」を知っているから、それを知ってドキリとする。クラスメートたちはそれを知らないはずだから、気にしないだろうね。
彼女の家へ実際に行ったことはなく、ストリートビューで確認したら、立派な一軒家だったのを覚えている。クラスメートを集めてパーティを開くなら十分な大きさの家だった。問題は、その家は高山さんの「ホーム球場」なので、危険極まりないということだ……。毒入りシャンパン(アルコール入りのほうがマシだね)を飲まされても不思議じゃない。
一通りの説明が終わったらしく、彼女は招待カードを配り始めた。彼女らしく、本格的にやるつもりらしいね……。
私は高山さんに、何か一言を言わなくちゃいけないと思い、朝の支度を中断する。クラスメートに聞かれてしまうのを覚悟しつつ、彼女が自宅を会場にする思惑を聞き出すつもりだ。
ところが、彼女がいる教卓まであと少しのところで、教室に担任が入ってきた。高山は素早く、その場にいた全員に招待カードを配り切る。
「ほらほら、もう席につけよ!」
一同に着席を促す担任。いつもの光景とはいえ、今は憎らしく思えた。招待カードをとりあえず配り切ったところを考えると、次の休憩時間に声をかけても遅いだろう。間違いなくほとんどのクラスメートが、彼女に出席の意志を伝えてしまうからね。つまり、間に合わないのだ……。
自席に戻った私が、朝の支度を急いで再開していると、高山さんがすぐ横を通過がてらに、招待カードを置いていった……。
予想できたこととはいえ、私は驚きを隠せない。彼女は私の反応を楽しむつもりではないらしく、そのまま歩き去っていた。ふと坂本君のほうを見てみると、彼もすでに招待カードを置いていかれたようだ。彼はまじまじとそれを見ているんだけど、危機感を持ってくれていると嬉しいな……。