正常な世界にて
バァァァーーーン!!
背後で突如、弾けるような爆発音が鳴り響いた。驚いて振り向く前に、爆風の一撃が背中にぶつかってきた。破片が飛び散る音が、私たちのすぐ足元でも鳴る。幸い、かすり傷も負わずにすんだ。
「うわぁ。まるで映画だな」
どこか楽しげな口調で坂本君が言った……。
あのビルのあのフロアが、爆発と火災で盛大な装いを見せてくれていた……。ダークグレーの煙が、ひしゃげた枠が残る窓から空へ、モクモクと上がっていく。これほどの状況なら、119番通報しなくても、消防車が次々に駆けつけてくるだろう。あの二人の刑事とガンガールがどうなったのかなんて、ここからではさっぱりわからない。ただ、突然ガス爆発が起こるほど古くはないビルだから、誰かが爆発を起こしたのはほぼ確実だね。
いい思い出が残っているわけではないから、爆破されたことにショックは感じない。とはいえ、手掛かりが台無しになったことには違いないから、じきに悔しさを実感するだろうね。
「あの女、ロケットランチャーでも持ってたのかな?」
爆発の原因なんて全然わからないのに、彼は勝手に感心していた。
「……今はこのまま逃げようよ」
「そうだね。あの爆発のせいでさらに気が狂って、見境なしに撃ちまくり始められたら困るもんな」
まだここは、爆風を背中に受けるぐらいの位置なのだ。スナイパーからは余裕で狙い撃ちできると思う。
少しでも離れたくて、自然と足取りが早くなる。だけど、全力疾走なんてしたら、どこかにいるかもしれないスナイパーに怪しまれることは確実だ。殺されはしなくても、逃げさせまいと、足めがけて撃ってくることは十分に考えられる。
「早く歩けよ」
背中のすぐ後ろから、坂本君の急かす声が聞こえる。やっぱり、せっかちなんだね……。
「急いだら危ないって、慎重に慎重にだよ」
私がそう言うと、仕方なしに足取りを遅くする彼。それでいいんだよ。できるなら、いつもそのスピードを維持してほしいものだね。
金山駅の駅前広場に到着した私たち。周囲には多くの人々。だけど、まだ油断禁物だ。面倒事を覚悟で、撃ちまくってくる可能性もある。「考えすぎだよ」と坂本君は苦笑いを浮かべたものの、彼は足取りを遅くしなかった。彼も私と同じように、それなりに強烈な恐怖心を抱いているんだろうね……。