正常な世界にて
「こいつ!!」
初老刑事は、ガンガールに勢いよく飛びかかった。ピストルを向けられているのに、勇敢なおじさんだね。
「ちょ、うわ!」
彼女は油断していたらしく、彼にのしかかられ、そのまま仰向けに倒れた。彼女のピストルが床に当たり、金属音が鳴り響く。とはいえ、彼女は2丁のピストルをしっかり握ったままだ。身長はともかく、握力は私より上だろう。
「何すんのよ!! どけよ!!」
すっかりブチ切れた様子で、暴れるガンガール。
「動くな! 銃から手を離せ!」
初老刑事は彼女にのしかかりながら、彼女の両手からピストルを引き剥がそうとする。それに必死で抵抗している彼女。
パンッパンッ!! パンッパンッ!!
揉み合いの拍子か、暴発したのか、ガンガールの2丁のピストルが次々に火を吹く。流れ弾が、壁や天井に穴を空けていった。古い建材の欠片や粉塵が舞う。
「もういいから逃げなさい!」
若い刑事は、私たちにそれだけ言うと、初老刑事の手助けへ向かう。また1発の銃弾が放たれ、天井に穴をこしらえた。流れ弾に当たって死ぬなんて嫌だね。
「行こう!」
坂本君が私の手を引き、揉み合う刑事二人とガンガールの脇を通り過ぎる。そして、エレベーターを待たずに、階段を駆け下りることにした私たち。ステップを打つ音が、うるさく鳴り響く。
「離れろ離れろ!! おとなしく私に殺されるのよ!!」
「頭がおかしいのかこいつは!?」
「それは確かでしょうね! でもそれだけじゃないのも確かでしょう!」
階段の上から、揉み合い続ける3人の声が何度も聞こえてくる。なかなか決着がつかないようだ。
大人の男二人に抵抗し続けられるとは、彼女はかなり強いらしい。ハリウッド映画のキャラクターみたいだね。もし彼女が勝てば、私たちは間違いなく追いかけられる。そして、刑事二人の後を追う形で殺されるわけだ……。
運が良ければ、明日の朝刊に「死者4人」と書いてもらえる。だけど、その記事を私がこの世で読むことはできない。高山さんとの仲直りも、真相の究明もできずに、この世から脱出するわけだね……。