正常な世界にて
私と坂本君は、ガランとした寂しさを感じるその部屋を、ウロウロと歩き回っていた。壁際には、パイプ式の机とイスが積み上げられている。
「埃が積もってるね。つい最近じゃなくて、けっこう前にここを去ったみたいだよ」
「高山さん、教えてくれてもよかったのに……」
そう言ったものの、自分からここを辞めた身だから、彼女を責める資格は無いね……。
「どうする? 高山に今どこにいるか聞く?」
スマホでラインを起動させる坂本君。
「……いや、高山さんじゃなくて、Iさんのほうが安全だと思う」
「なんでさ? アイツのこと、ボクらよく知らないじゃん?」
「いや、このあいだ以外でも、いろいろ教えてくれたんだよ LINEでやり取りしてね」
「え!? そんなことしてたのかよ!?」
嬉しくなさそうな坂本君。焼き餅かな?
ガチャリ
そのとき、出入口のドアが開いた……。二人のスーツ姿の男性がいて、先客である私と坂本君に驚いていた。もちろん、私たちも驚かされたよ。なにしろ、若い刑事さんと初老刑事のあの二人組だからね……。刑事さんたちは、がらんとした部屋を見回した後、ため息をついた。どうやら、刑事さんたちも、ここに用があったらしい。
「なんで君たちがここに?」
若い刑事が尋ねてきた。よくある話だけど、それは私も尋ねたいことだ。
「友達に会いにきただけだよ。ここにはいないけどさ」
そう答えた坂本君。
「……その友達ってのは、高山という女の子だろ? それに今は『元友達』じゃないのか?」
初老刑事が、嫌味ったらしく言ってきた……。ウザいけど、ここは耐えてね坂本君?
「アンタらの基準ではそうなるかもだけど、ボクらの基準ではまだ友達だよ。そんじゃ、お仕事がんばってくださいね」
坂本君はそう言うと、刑事さんたちの間を通り、出入口のドアへ向かう。すぐに彼を追う私。こんなところでこんな人たちとの長居は、無用中の無用だね。