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連載小説「六連星(むつらぼし)」第71話~75話

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 「なんだ響。その目は・・・・
 やっぱり、俺がいきなり言い出すのには、ふさわしくない話題か? 
 俺だって世間の出来ごとに関して、それなりに常に注意をはらっている。
 俺が固い口調で、原発を口にしたら、やっぱり、
 お前から見たら可笑しく見えるか?」
 
 「いいえ・・・トシさんと面と向かって、原発の話をするなんて、
 考えてもいませんでしたから。
 それから、ごめんなさい。
 自分でもまだすこし、戸惑っています。
 昼間は思わず、トシさんに「お父さん」などと口走ってしまいました。
 ごめんなさい。まだ、頭の中の整理ができていません。
 お父さんと呼んでしまったことに、根拠はありません。
 そうだったらいいなぁと思って、偶然と飛び出してしまった私の願望です。
 気を悪くしないでください・・・・口が滑ってしまいました。
 いままで通りでいいですから、わたしのことを嫌わずに、
 傍に置いてください」

 真っ赤になりながらも響が、弁解の言葉を並べていく。
両眼が潤んでくるのを感じ、必死の思いで涙をこらえていく。
(やだ・・・また心臓が、激しくドキドキしてきたわ・・・・)
いくら堪えても、湯気があがるほど全身が熱くなっていくのを、
響が感じている。
響の気持ちを見透かしたように俊彦が、響の頭へポンと手を乗せる。
人の気配を確認してから、響の耳元へそっと囁く。


 「君は、とってもいい子だ。
 君のお母さんの清子さんも、チャーミングで、とても素敵な女性だ。
 そんな二人から慕われる人は、とても幸せだと思う。
 そんな幸運な男は、この世にめったに居ないとも思っていた。
 俺も、君みたいに可愛い娘が欲しくなった。
 嬉しい事に、それがまた現実の出来ごとになるつつある。
 俺は40歳を過ぎるまで、一人身で過ごしてきた男だ。
 いきなり家族が出来ることに、面食らっている自分がいることも事実だ。
 受け入れるまで時間がかかると思うが、それはまた君にも
 同じ事が言えるだろう。
 俺は、根っからの不器用者だ。
 時間をかけて、君のすべてを受け入れる準備をするから、
 君もそのつもりで辛抱強く待っていてくれないか。
 ただしまだこのことは、誰にも口外をしないでくれ。
 俺の動揺が暴露しちまうことになる!。君のお母さんにもまだ内緒だぜ。
 今はまだ、響と俺だけの内緒の話だ。
 今のうちは、まだそれだけだけでも、良いだろう。
 俺の言っている意味は、解るよね?」

 みるみる響の目が潤んでいく。
大きな涙が浮かんできて、目がしらにぷっくりと大きな固まりを作る。
「馬鹿だなあ・・・」ポンともう一度頭を叩いて、俊彦が響から離れていく。

 「今後のために、外で岡本と行き逢ってくる。
 一時間もすれば戻ってくるから、悪いがその間、ここで見張り番を頼む。
 泣くな。俺までもらい泣きをしちまいそうだ・・・・
 つもる話は山のように沢山あるが、後の機会にゆっくりやろう。
 じゃあな。ちょっと出掛けてくる」

 俊彦が、丁度到着したエレベーターの中へ消えていく。
誰も居なくなり、すっかり静かになった廊下で、響が両方の瞼を
荒っぽくこする。

 「原発が初めての後退を見せた、史上初の廃炉記念日だ。今日は・・・・
 54基から50基に原発が減った日だ。
 50年余の歴史の中で、初めて原子力政策が、下降線の瀬戸際に
 立った記念日だ。
 24歳の私にとって、4月19日はもうひとつの大切な記念日になった。
 父の手は、とっても温かくて重たかった。
 お母さん。私を生んでくれてありがとう。
 おかげで響は、24年間生きてきた中で一番の、とっても嬉しい一日と、
 巡り合えることが出来ました。
 私と母とトシさんの、3人が一本の糸でつながりました。
 あ・・・いけない、まだ周りには内緒の事だ。
 内緒にしておけとさっき、トシさんに念を押されたばかりだ!
 有頂天になるのは、まだまだ早すぎます・・・」