小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載小説「六連星(むつらぼし)」第71話~75話

INDEX|8ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 「よかったぁ!。
 でも、ICUから、そんな簡単に出られるのですか。
 あたし、山本さんの吐血があまりにも酷かったもので、てっきり・・・・」

 「ああ、大丈夫だ。もう心配にはおよばない」
禁煙パイプをくわえなおした杉原医師が、目を細める。
「ただし。」と杉原が強い目線で、響の顔をのぞきこむ。

 「問題はこれからだ。
 体内被曝の後遺症は怖い。山本氏はいま、多臓器不全と言うべき状態だ。
 この先、何が起こっても不思議では無いだろう。
 油断できないという事態が、長くつづくことになるだろう。
 片時も目が離せなくなる。
 万が一と言う事態も、想定しておかなければならない。
 頼んだぜ、響ちゃん。
 大変だが、山本氏には、君の笑顔と付き添いが必要になるだろう。
 励ましてやってくれよ。二部式着物のナイチンゲールくん」

 ポンと響の肩を叩いた杉原医師が、ふたたび禁煙パイプを口にくわえる。
目で俊彦に合図を送ると、白衣の裾をひるがえして仮眠室へ去っていく。

 「ご苦労さん。気ぜわしい一日になってしまったが原発が54基から、
 福島の4つが減って、今日からは50基になった。
 たった今それが決まって、テレビで臨時ニュースが流れていた。
 もう、どこかでそのニュースを聞いたかい?」

 杉原医師から分けてもらった禁煙パイプを、口にくわえた俊彦が、
響に問いかける。

 「福島が、正式に廃炉になったということですか?」


 「廃炉申請は東電が3月末から、経済産業省に届け出ていた。
 今日になって、それが正式に受理された。
 商業用の原子炉としての廃止が認められ、電気法と言う法律の範囲内で、
 福島第一原発が消滅したという意味を持つ。
 だが、廃炉が決まったとはいえ、炉内やプールには核燃料が残っている。
 冷温停止状態を維持する作業は、今後も長期にわたって継続される。
 溶解した燃料の取り出しも、この先、20年から30年近くかかる見通しだ。
 完全に片付くまでには、40年以上かかるだろうという見方もある。
 しかし今日まで増え続けてきた日本の原発が、減る日を迎えたと言うことは、
 やはり記念すべきことだろう
 耐用年数の40年を越えた危険な原発も、沢山あると言うのに廃棄どころか
 政府も電力会社も、ひたすら延命のための工作をしている。
 不本意とは言え、4つの廃炉が決まったことは記念すべきことだ。
 2012年の4月19日は、日本の原発史上にとって、
 特別な意味を持つ日になった。
 原発史上初の、原発廃炉記念日だ。あとで、ゆっくり確認するといい」

 響が、目を丸くして俊彦の話を聞いている。
だが見つめている響のその目に、かすかに懸念の色が浮かんできた。