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連載小説「六連星(むつらぼし)」第71話~75話

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 配管の破裂のため、高温の蒸気と熱水が一気に周囲へ噴出する。
5日後に迫った定期検査のための準備作業をしていた「関電興業」の下請け企業、「木内計測」の作業員11人が、この事故に巻き込まれてしまう。
5人が全身にやけどを負って死亡し、6人が重傷を負う。
原子力事業所内の事故として、過去最悪といえる犠牲者を出してしまう。


 原子力推進派は、これだけの大惨事にも関わらず、
2次系冷却水に放射能が含まれていなかったことから、これを原発内の
「単なる労災事故」として位置づける。
原発の安全神話を守るために、事故をきわめて軽度のものとして片付ける。

 こうした態度の中に、原発を擁護する側の危機管理意識の乏しさが見える。
事実を歪曲したうえに、都合の悪いことは隠ぺいするという欺瞞の体質が、
すでに見え隠れしはじめている。
この事故には、隠されたもっと重大な意味が有る。
炉心を冷やすべき冷却水の大半が失われて、原発の炉心そのものが
溶解の寸前であったという事実だ。


 事故により、885トンの冷却水が噴出し漏出している。
この量は、2次系冷却水の全体量の約8割に相当する。
補助用の給水ポンプがすぐに稼動して、炉心へ冷却水の補充が行われている。
1次系と熱交換を行う蒸気発生器の水位は、一時的にだが
危機的な状態まで下がった。
関西電力の発表でも、午後4時55分段階で水位が3分の1まで下がっていたと
後になってから明らかにしている。
しかし多くの専門家よれば、一時的にはさらに冷却水の水位が下がっていた
可能性が有ると、厳しく指摘されている。


 この事故により、原子炉は事故発生の6分後に自動で緊急停止している。
高温のまま緊急停止したことで、この後の冷却水の補充に失敗していれば、
炉心が溶融して、破滅的な事故に至った可能性すらある。
スリーマイル島の事故も、2次系冷却水の漏洩がきっかけで発生している。
2次系といえども、冷却水の喪失事故を軽視することはできまない。


 配管の破裂部分は、通常なら10ミリほどの肉厚がある。
だが、配管の老朽化は極限まですすんでいた。
交換が必要とされる限度の 4.7ミリを大きく下回り、もっとも薄い部分では
0.4ミリになっていたと、後の報告書に明記されている。
破裂した復水管は炭素鋼でできており、ステンレスなどと比べて
比較的、腐食が進みやすいといわれている。


 原発美浜と同じ加圧水型の原発をもつ、アメリカのサリー原発でも
1986年に、直径45センチの配管が一瞬のうちに破断するという
事故が起きている。
高温の水蒸気と熱水を浴びた作業員4人が死亡するという、今回と同様の事故が発生している。
その後の検査でも、配管には激しい腐食跡が見つかっている。
この事故を受けて、1990年に加圧水型原発では新しい安全管理の基準が
急いで国会でつくられている。


「2次系配管の肉厚の管理指針」のマニュアルでは、今回の破裂箇所は、
点検対象となるべき重要な検査場所であると指摘をしている。
こうした指針があるのにも関わらず、電力会社が検査と交換を放置してきたことに、大きな問題が残る、
美浜原発を抱える関西電力は、運転開始以来27年以上にわたり、
いっさいこれらの検査をしていないという、呆れた事実まで発覚した。


 「熱心な顏だな。その顔は、
 また何か、興味深いものを見つけたようだ。
 お前さんは今度はいったい、何に好奇心を持ったんだ」

 「あっ、お帰りなさい。
 ごめんなさい、気がつきませんでした・・・・」


 ノートパソコンを閉じて立ちあがろうとする響を、俊彦が目で止める。