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連載小説「六連星(むつらぼし)」第66話~70話

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 「馬鹿野郎。
 俺は、小学校に入る前から響の大ファンだ・・・・。
 赤いランドセルを宇都宮で買ってやったことが、始まりだ。
 響はお前さんが足尾の山で、ボランティアをしていることも知っている。
 俺たちが、原爆症の末期の連中に『罪滅ぼしとしての治療』を
 受けさせていることも、最近になって知った。
 原発に関しての勉強も、始めたらしい。
 誰かが記録して、世界に発信する必要があると、語るようになってきた。
 何を成し遂げるかは知らないが、独り歩きを始めた響を、
 応援をしてやろうと俺たちは、相談をしている」

 「そんなことを言ったて・・・・響はボランティアなんかに目覚めるよりも、
 誰か良い人を見つけて、お嫁に行く年頃だわよ」

 「よく言うぜ。じゃあ、お前さんの場合はどうなんだ。
 嫁にも行かずに、一人で勝手に子供を産んで、湯西川で大勢の女たちに
 手助けされて子供を育ててきたくせに。
 考えて見ろ、清子。
 あの子は、公害の山で植樹をしているボランティアのばばぁや
 助かる見込みのない原発労働者たちを、最後まで治療する活動をしている
 じじぃ連中の真ん中へ、たった一人で飛び込んできたんだぜ。
 普通なら避けて通りたいところだが、あいつは自分から飛び込んできた。
 お前さんやトシのDMAを、受け継いでいるというなによりの証拠だ。
 被災地のボランティアで、伴久ホテルの女将たちと
 あちこちを飛び回っている、どこかの芸者とまったく一緒だろう。
 他人のために頑張ると言う、見上げた資質と気質を持ち合わせている子だ。
 響と言う娘は」

 「そういえばこの間、気仙沼で会ったわねぇ。あんたと」

 「お前さんの、手ぬぐい姿の姉さんかぶりも、すっかり板についてきた。
 東北でのボランティア活動は、まだまだ当分の間はつづくだろう。
 市民の敵のやくざが、ボランティア活動を口にするのはおこがましいが、
 東北はまだまだ、いろんな人の応援を必要としている。
 響は被災地の東北で、新しい自分の目標を見つけてきたんだろう。
 若い連中が、目標を見つけるのは良いことだ。
 響は桐生に来てから、変わり始めた。
 それが見えてきたからこそ、お前さんも、あんな良い生地の着物を、
 二部式の着物に作り変えて、持ってきたんだろう。
 素人には解らないだろうが、俺の目は誤魔化せねェ。
 あの着物の生地は、高価だ」

 「たいしたことありません。
 あの子が喜んで着てくれるなら、造った甲斐も有るし、安いものです」

 
 「お前さんもやっぱり、親バカだ。
 高価な着物を、惜しげもなく2つに切っちまうなんて、どうかしているぜ。
 もっとも娘にそう言われたら、俺も同じようにするかもしれねぇ。
 親なんてものは、みんなそんなもんだ。
 トシにも親の馬鹿になる心境を、味あわせてやりたいもんだ」

 「それなりに、トシさんも味わっているんじゃないかしら。
 今のところはまだおっかなびっくりの、及び腰状態だけどね・・・・」

 「実の親子じゃないか。
 遠慮する必要はないと思うが、24年間も他人として育ってくれば、
 簡単には、事がすすまないということか。・・・・トシのやつも不憫だな」

 「・・・・悪かったわね。どうせ、一番悪いのはわたしです。
 あ~あ、不良の晩酌の相手なんか、してあげるんじゃなかったわ。
 事実だから仕方ないけど、あたしだけが悪者にされるのは不本意です。
 はいはい。諸悪の根源はすべてあたしです。ふん!。
 悔しくなってきたから、もう湯西川へ帰っちやおうかしら」

 「おいおい清子。折角出かけて来たんだ。まだ帰るな。
 お前の、その怒ってふくれた顔も、またなんともいえず可愛い。
 やっぱり年季を積んだ女は、どこかが違う。
 いい女は、なにをやっても絵になる。
 ほら、もう一杯行けよ。機嫌を直して、乾杯しょうぜ」

 「機嫌は直します。
 でもいったい何のために、誰のために乾杯をするの?」

 「あっ、まだ、何のために乾杯するのか考えてねぇや。まぁいいか・・・・
 響とトシが上手くいくことを願って、乾杯しょうぜ、なぁ清子」