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連載小説「六連星(むつらぼし)」第66話~70話

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 「あんたが連れてきた山本さんが、きっかけです。
 織物会館で、二部式の着物を買ってくれたのがはじまりのようです。
 津波で亡くなった奥さんが、日頃から着ていた、お気に入りの衣装らしいの。
 奥さんへの供養がわりに、響に買ってくれたそうです・・・・
 その日以来、ああして響が着物を着始めたのよ。
 私が用意した成人式の着物なんか、まったく見向きもしなかったくせに、
 今頃になり着物を着はじめるんだもの、世の中、
 何が起こるか分からないわね。
 やれ着付けを教えろ、足袋や草履が欲しいから頂戴なんて、
 ずけずけと催促するんだもの。
 いったい、どういう風の吹きまわしなのかしら・・・・」

 「響は、心根の優しい、思いやりのある女の子だ。
 そうか。そんな風にして、山本の最後を見届けるつもりかもしれねぇ。
 それで突然、響は着物なんか着はじめたんだ。
 なるほどなぁ。いい子だなぁ、響はやっぱり・・・・」

 
 「なんの話?、あたしにはさっぱり意味が解らないけど」

 「原発労働者の山本のことだ。
 俺が原発へ送り込んだうちの一人さ。
 失業者やホームレス、借金で首の回らない連中をずいぶん送り込んできたが、
 多くが、体内被ばくが原因で、命を落としている。
 山本のように原発を渡り歩く連中も、同じ運命を送ることになる。
 長年にわたり原発で働けば、遅かれ早かれ、原爆病を発症することになる。
 山本も、そうした一人だ。
 杉原の話では、余命はあと数ヵ月から半年だと言う」


 「まさか。あんたたちは、それに響を巻き込んでいるというのかい!」

 「誤解をするな。俺たちは、響に看病を頼みこんだ訳じゃねぇ。
 自分から、思い出があるという二部式の着物とを着こんで、そんな風に、
 余生の短い山本に、接し始めたと言う事だろう。
 響の思いやりから始まったことだ。
 お前さんも、杉原とは何度か行き会っているから、もう知っているだろう。
 あいつは広島帰りの医師として、原爆症に関しては詳しい。
 杉原に協力してもらいながら、原爆症にかかった労働者たちの
 最後を見届けている。
 いまの日本じゃ、発症をしても原発が原因だとは、誰も認めねぇ。
 下請けの、そのまた下請けで働いてきた原発労働者なんか、用事が済めば、
 紙くず同然に捨てられる。
 病気になろうが、死のうが、原発も日本の政府もまったく振り向きもしない。
 黙って死んでいくだけが、原発労働者たちの運命さ。
 長年にわたり、原発へ人を送り込む仕事で、俺は飯を食ってきた。
 末期の連中の面倒を見るのは、俺のせめてもの罪滅ぼしだ。
 手伝ってくれるトシや、杉原には感謝している。
 その事は、お前さんもすでに気がついているだろう・・・・
 山本は、もうすでに、手の施しようがない状態だ」

 「あんたたちのことは、うすうす気がついていたけど・・・・
 それにしてもどういう風の吹き回しかしら。
 どういうつもりで響は、あんたたちの活動に、協力をはじめたのかしら」
 

 
 「響が桐生へ来て、2ヶ月になる。
 最初に見た時は、響とは気がつかなかった。
 6歳の時に会っただけで、いきなり25歳の女の子として俺の前に現れた。
 小生意気で、少しばかり器量良しの、どこにでもいるような小娘だった。
 お前の娘、響と知ったときは驚いた。
 響が変わり始めたのは、金髪の英治と付き合い始めてからだ。
 男と女の仲じゃねぇ。それについては心配するな。
 何事もなかったようだから、そんなに怖い目で俺を睨むな。
 二人して東北の被災地に、行方不明の伯父さんを探しに行った話は、
 トシから聞いて、お前さんも知っているはずだ。
 被災地を自分の目で見て、原発の後遺症を目撃した頃から
 響のなかで、何かが変わり始めたようだ。
 二部式の着物だってそうだぜ。
 見ろよ。いまでは喜んで着ていると言う顔をしているだろう。
 そういう娘なんだ。俺たちの響って言う子は・・・・」

 「あんたはいつから、響のファンクラブに入ったのさ」