小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載小説「六連星(むつらぼし)」第66話~70話

INDEX|6ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 「あ。・・・・いや・・・例えばの話をしていただけだ。
 同級生の悪口なんか、言っていないぞ、俺は。
 お前さんが、女の旬を通り過ぎたなんて、口が裂けても言えねえだろう。
 お前さんは、いまも綺麗なままだ。
 だが響きも、それに負けず劣らず綺麗だと褒めたんだ。
 色気で言えばお前さんの方が、今でも格段に上だ。小娘の敵じゃねぇ。
 成熟した女の魅力には、響だって勝てねえさ。
 というようにに、あの後に付け加えて言うつもりだったんだ、俺は。
 ああ・・・・びっくりしたぜ、まったく。
 居るなら居るで、先に挨拶するか、登場してくれよ、人が悪いなぁまったく。
 心臓が停まるかと思ったぜ。
 で。お前は。なんで今頃、桐生に居るんだよ。
 また湯西川温泉で何か、事件でも起こしたのか?」

 「停まればよかったのに、あんたの心臓なんか。
 響が突然、着物を着たいなんて言い出したから、帯やら履物やら、
 必要な小物を揃えて、届けにやってきただけさ。
 ついでにあたしの若いころの着物を、二部式に作り変えていたので、
 やってくるのが遅くなっただけさ。
 さっき来たばかりだよ。
 ついでに春物の野菜を持ってきたので、奥で漬物をしていたところだよ。
 悪かったわね。漬物臭い芸者で・・・・」

 
 「そんなにへそを曲げるなよ、清子。
 俺が悪かった。言い過ぎたことは認める。もう勘弁しろ。
 で、なんだ。二部式の着物ってのは? 普通の着物とは何かが違うのか?」

 「上と下が別々になった、今風の着物のことだよ。
 巻きスカートになっているものも有るけど、あたしの下は
 『もんぺ』風のズボンさ。
 もう若くもないし、見た目もボロボロだもの、容姿じゃ響きに勝てません。
 おっしゃる通り。腰の周りにお肉がついて全然スラリとしていないし、
 折り紙つきの、『姥桜』ですからね。あたしは」

 「だからもう、そんなに怒るなよ。
 せっかくの美人が、台無しになっちまうだろう。
 そんなことはねぇ。いまでもお前さんは、俺たちのマドンナだ。
 響みたいな小便臭い小娘と、比べるほうに無理がある。
 で、なんだよ。今日は桐生に泊るのか。
 いくら高速道路が繋がったとはいえ、夜中に帰るのは大変だ。
 泊まるんなら、一杯やろう。
 トシなんか放っておいて、俺と一緒に一杯やろう。
 機嫌を直して、仲直りの手打ちといこう」

 響と入れ替わるように、もんぺ風のズボンを履いた清子が、
ビールを片手に、岡本のテーブルへやってくる。


 「こっちこそ、お礼を言うようです。
 響を可愛がってくれているんですってね、岡本さん。
 私とは、まったく縁が無いのに、響とは相性がいいみたいですね。
 宇都宮でバッタリ出合った時もそうでしたけど、
 あんたったら私よりも、響に夢中なんだもの。
 可愛い可愛いを連発するんだもの、我が子ながら、やきもちが妬けた。
 でも、嬉しかったなぁ、響の赤いランドセル。
 贔屓にしてくれたうえに、お客さんをたくさん紹してもらいました。
 おかげ様で清子は今日まで芸者家業を、続けることができました」

 「よせよ。あらたまって感謝されるようなことは、しちゃいないさ。
 お前さんが売れたのは、お前さん自身の努力の結果だ。
 花柳界も、俺たちの世界も同じようなもんだ。
 実力だけがものをいう。
 こつこつ努力して積み上げたものが、信用になり、人間性をつくる。
 お前さんの舞には、そう言うものが有る。
 真剣勝負の一度きりの舞姿・・・・華があった、お前さんには。」

 「顔が赤くなります。ずいぶん昔の話だもの」

 「宇都宮でバッタリと有った時は、お前さんが26歳になった時だ。
 女は子供を産むと美しくなるというが、あんときのお前さんは綺麗だった。
 しかし俺はやっぱり、響のほうが可愛く見えた。
 天使みたいだったぜ、あん時の響は」


 「しつこかったものねぇ、あの頃のあなたは。
 頼むから響に会わせろって、何回も頼まれたもの・・・・
 やっぱり、岡本さんと響には、不思議な縁が有るんですねぇ。
 こうしてまた岡本さんに、可愛がってもらっているんですもの」

 「そんなことよりも・・・」と、岡本が声をひそめる。
厨房の様子を確認してから、清子を手招きする。
清子の耳へ、内緒の話を始める。

 「宇都宮で初めて見た瞬間から、実は、響という女の子は・・・・
 トシの子供だろうと、見当をつけてきた。
 そうなんだろう、お前。
 旦那もパトロンも造らないお前さんが、ひとりで響を育ててきたんだ。
 訳ありだろうとは思ったが、思い当たる奴と言えば、トシくらいしか居ねぇ。
 どうなんだ。本当のところは・・・・違うのか?。俺の推測は?」

 「響には、まだ内緒です・・・・でもさぁ、よく解ったねぇ。あんた」