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連載小説「六連星(むつらぼし)」第66話~70話

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 山本が響の着ている二部式の着物を、上から下までゆっくりと
目におさめていく。
細めた目じりには、かすかに滲んで光るものがある。

 「早速、着てくれましたか・・・・
 ありがとう。実によく、似合います。
 湯西川で、着物姿を見慣れてきただけのことはありますねぇ。
 着こなし方に、馴染んだ雰囲気がすでに漂っています。
 現代っ子だとばっかり思っていましたが、響さんは以外なほどに、
 大和撫子のようです。
 美人が着ると、安い二部式の着物でも、本物の着物ように見えてくるから
 実に不思議ですねぇ」

 コホンと咳き込んだ山本へ、響があわてて介抱の手を伸ばす。
いち早い反応を手で制した山本が、目を細めたまま
「いやいや、大したことは有りません。大丈夫です」と苦笑いを見せる。

 「長年にわたり、原発の仕事を渡り歩いてきた結果です。
 身体の中の被ばく量は、どのくらいなのか、把握することはできません。
 外部被ばくも深刻ですがそれ以上に深刻なのが、内部被ばくの数値です。
 ですがそうした実態については、政府も電力会社もマスコミも、
 一切触れていません。
 積み重なった内部被ばくが、原発労働者の健康を害すると言う事実を
 原発も政府もこれまで、ひた隠しにしてきたのです。


 原子力発電所の建屋の内部は、長年の間にすべての物が、
 放射性物質に変わっていきます。
 物体のすべてが放射性物質に変わり、放射線を出すようになるのです。
 どんなに厚い鉄でも、放射線はそれを突き抜けます。
 その結果。原発内では全ての物が内部被ばくの環境に変わります。
 問題は、ホコリなのです。
 どこにでもあるチリとかホコリが、放射能を運びます。
 原発の中では、ホコリとチリが放射能をあびて放射性物質に変るのです。
 ホコリとチリは、あらゆる場所へ飛んでいきます。
 放射能をおびたホコリが口や鼻から入ることで、内部被曝をひきおこします。

 実に、恐ろしいことです。
 原発内の作業では、片付けや掃除だけでも内部被曝をしてしまいます。
 体の内部から放射線を浴びるという内部被曝の方が、外部被曝よりも、
 はるかにずっと危険なのです。
 体の中から、直接、放射線を浴びるわけですから。
 体の中に入った放射能は、三日くらいで汗や小便と一緒に外へ出てきます。
 しかし三日の間、放射能は体の中に置いたままです。
 体から出るといっても、人間が勝手に決めた基準ですから、
 決してゼロになるわけでは有りません。

 これが非常に怖いのです。
 どんなに微量でも、放射能は確実に、体の中に蓄積されていきます。
 原発を見学した人なら分かると思いますが、一般の人が見学できるところは、
 とてもきれいにしてあります。
 案内する職員も「きれいでしょう」と、自慢そうに語ります。
 きわめて当たり前のことなのです。
 きれいにしておかないなければ、放射能のホコリが飛んで危険なのですから。
 徹底的に掃除するのが、当たり前なのです。
 私は内部被曝を、百回以上も繰り返したあげく、病気になってしまいました。
 しかし、原発労働者たちのほとんどは、まんぞくな治療を受けられません。
 切り捨てられるだけというのが、日本の事実です。
 私はまだ治療を受けているだけ、ましなほうかもしれません・・・・」

 「山本氏は、長くないだろう」と、俊彦から聞かされている。
しかしこうして面と向かって山本から、自分の病気の末路を告白されてしまうと、響も、こらえようのない悲しみがこみあげてくる。
しかし山本は、静かに語り続ける。

 「響さん。
 内部被ばくの影響で、私の身体がもう長くないことは、とうの昔から、
 私も覚悟していた事です。
 それなりの覚悟は、できています。
 最後にひとつだけお願いが有るのですが、聞いていただけますか、響さん」