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Neutopiaの恋人

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002 終業



  終業のベルが鳴る。このsound effectを「キンコンカンコン」と聴き取った人間は、一体誰なのだろう?「きっと加賀美さんのような人だろうな」
加賀美テル、クラスの異質物。誰とも打ち解けることなく、常に最後列から、観察者の眼で、すべてを観ている。部活はしていない。生徒会にも属さない。どの仲良しグループの輪にも入らない。アパートに独り暮らしで住むという、つまり家庭もない。彼女は常に単独で存在し、あらゆる組織から独立している。下手をすると学校にさえ籍を置いてないのではないかと、勘繰りたくなる程だ。
そんな彼女が僕を屋上に呼び出した。放課後、話があるという。冷たい風が黄緑色のフェンスをすり抜けて、彼女の髪を揺らしている後ろ姿、近づくと振り向きもせずに彼女はこう言った。

「ゴメンなさい」

唐突の謝罪に、僕は当惑するーー何を謝っているんだ?

「貴方を消去します」

「どういう事?」

「貴方は、私のプログラムにより生じた擬似人格なの」

ーー言っている意味が分からない。僕は声にこそ出さないが、心の中で「きょとん」と言った。そんな心の声を聞いてか彼女ーー

「説明しても、きっと理解はできないでしょう。ケージの中のハムスターに、アリゾナ砂漠の広大さを説明することが困難なように。金魚鉢の金魚に、マリアナ海溝の深さを説明することが不可能なように、このセカイで生まれた貴方に、真実を理解させることは絶望的だ」

「アリゾナ砂漠の広さについては、僕は概ね理解しているつもりだし、自分自身がハムスターでない事も理解している。加賀美さん、僕を消去するってどういうことだい?まさか、殺しちゃうなんていう意味じゃあないよね?」

「殺しはしない。ただ『消去する』だけ。貴方にはモブキャラクターとして重大な欠陥があるいわば失敗作。山田 B 、貴方好奇心旺盛すぎる。頻繁にケージから脱走を試みるハムスターには、なんらかの対応が必要だ。金魚鉢を飛び出した金魚は、どうせ窒息して死んでしまう」

「僕がモブキャラクター?」鼻で笑う。何をバカなことを……

「貴方は人類ではない」彼女は真剣な口調。ようやくここで、振り向く。夕陽に成りかけの太陽が彼女に後光を作った。とても美しいeffectだ。もしも販売するとしたら、50TBには値するだろう。

「僕は、肉体と無意識のデータを所持しており、satelliteにおいてF3市民として登録されている。ちなみにこれが市民カード」空中にhoroを出現させる。縁取りのない平面的映像が僕と彼女の間に浮かぶ。それは、『C』が発行した、僕の名を刻む市民カード。明滅する彩りが、細やかな文字群を形成して、クルクルと回転しながら、浮かんでいる。
「ここに記載があるように、僕はれっきとした人類であり、satellite市民だ」と言い放つ。ため息がち「残念ながらね」とだめ押しすることも僕は忘れなかった。
彼女の妄想言い掛かりに、これ以上付き合いきれない。「要件はそれだけ?じゃあ僕はこれで」

背を向け立ち去ろうとする僕の襟根っこに、かつてない負荷が掛かる。遅れて彼女の革靴が、屋上のコンクリをタンタンと駆ける音が、聞こえた。僕は宙に浮く。もがき首を振るうち、彼女の手が僕の襟を掴んでいることを認識したーーあ、ありえない怪力じゃないか!?こんな細い腕のどこからこんな力が?見ると彼女の腕に、青黒い刺青が浮かんでいる。それは禍々しく、凶々しく、まるでドラゴンの鱗じみた印象。燐立せし立体の刺青。僕は眼を剥いて彼女の顔面を探る。およそ同級生らしくない凶悪相が、笑みすら浮かべ僕をの狼狽えを観察している。

「山田 B、貴方 の下の名前は何?」「え?」「答えて、人類かつsatellite市民ならば、名前があるはずでしょう?」「僕の名前?」「そう貴方の名前、答えられる?」「当然だ!僕の名前は……」と言いかけ、唇が動きを止めるーーえっと……あ、あれ、僕の名前は『山田B……なんだっけ?

「き、君が気を動転させるから、一瞬名前が飛んじゃったじゃないか。僕の名前は……山田 B……」落ち着け!僕はhoroを呼び出す。そこに書かれているはずの、自分の名を読むために。horoの記載、文字がグシャグシャになっていて、読み取れないーー馬鹿な?!

「モブキャラクターとはね、核戦争により大きく数を減らしてしまった人類が、かつての地球に近い人口密度を保ち、『より地球的リアルライフを再現できるように補完する存在』、というコンセプトのもとに造られた、いわゆる擬似人格プログラムなの。例えるならば、映画や漫画に登場する、名前や設定を持たない、シーンに見切れるだけの脇役。木やベンチといった背景の一部と同じような存在にすぎないわけ」

「モブキャラクターが、どういうものなのかってことぐらい、僕だって知っている」 彼女は鼻で笑う「そうでしょうとも。でも私がPUROGURAMAだってことは知らないでしょ?」「え?」
「私はモブ専門のPUROGURAMA。私の腕は一流。6500ヘキサバイトという限られた制限の中で、本物の人間に近いキャラクターを設計することができるのは、satellite中できっと私だけ。理解した?貴方は、私のPUROGURAMUしたモブキャラクターなのよ。貴方は17年の歳月を生きてきた記憶を持っているでつもりしょうけど、実はそれも私によって作られた記憶で、実際に貴方がこの世界に生まれたのは、74時間と13分前のこと」

僕はクラスメイトの女子に、片腕で吊るし上げられているといシチュエーションのなかで、加賀美テルの話を、噺として聞いていた。「……ともかく一旦僕を地面に降ろしてくれないか?」どさり、あっけなく土嚢のような音を立て僕は落ちる。「痛っ…………ところでその腕の入れ墨みたいなのは……なに?」

「これはdemonz tattooよ。あらゆる武器が実効性を失ってしまっているこの世界において唯一、人体を破壊するほどの威力を持つ格闘プログラム」「demonz tattooって確か……『C』の意思により実行されているこのセカイの例外的兵器、じゃなかったっけ?どうして君がそんなものを……」「まぁ、ファッションね。それと暴漢タイプのモブを消去するときに便利だから彫っただけ。汎用一般男子高校生型モブ-山田B Ver3.645、貴方の好奇心に付き合っていたらきりがないわ。そろそろ私は、貴方を消去して次回作に取り掛からければならない。クライアントに急かされているのよ。納期まであと120時間しかないわ」言い終わらぬうちに、彼女は、例の入れ墨を、少女の細いうでに激しく鱗立させて、僕の喉を鷲掴みに握り締めるーー声が出せない。
作品名:Neutopiaの恋人 作家名:或虎