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Neutopiaの恋人

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001 卵殻



卵殻型のpodに身を横たえて、睡眠学習プログラムを起動した。

『……2045年ニューヨークにて、小型中性子爆弾を使用した史上最悪のテロ事件が発生しました。死傷者は推定百万人超と言われています。このテロが銃爪となり、核戦争――いわゆる第3次世界大戦が勃発しました。この世界大戦は、勃発からおよそ78時間で集結した、歴史上最も期間の短い大戦です。しかしこの大戦により死亡した人の数は、59億――全人類のほぼ65%というとてつもない数字を記録しています。生き残った人類は、放射能に汚染された地上での生活を棄てて、宇宙に逃れました。肉体を棄てて……記憶と精神の機能をデータ化し、公転軌道上を周回する人工衛星の記憶領域内に、集団で避難したのです』

 映像――オフィス街、様々な人種、性別、オトナ老人子供達が、次々と倒れていく――地下施設だろうか?窓の無い無機質な空間に薄暗い蛍光灯の照明、剃り上げられた頭皮、ベッドに横たわる。100に近い針が、その頭部に刺さっている。針の根はコードに繋がり、更にその先はコンピューターに接続されている。ゲージ満たされてゆく、シークバーがその跡を追う。100%に達して、シークバーがエラーチェックを終えると、蛍緑光の心電波形は、脈動を止めてフラットになる。次の手術の準備――

『これが今現在の地球の姿です』

 映像――アオい星、蒼と碧と藍の区別を綯い交ぜた色彩を張り付かせる――アオい惑星、実はそのアオさは、放射線という透明な悪意を孕んでいて――生物を拒絶している。

『この映像はリアルタイムです。第124Satellite『羈』に備え付けられたカメラにより、サテライト市民の皆様はいつでも宇宙から見た地球の映像にアクセスが可能です。これは無料のサービスとなっております。Storageを支払う必要はありません』
人工衛星のHDD内に収められたこのセカイでは、所持している記憶領域こそが、その人間のPowerであり、通貨なのだ。

『いつの日か地球に満ちる放射線が、半減期を迎え、再び人類を受け入れるようになるその日まで、私達は人工衛星(satellite)の中で、遺伝情報および記憶と精神をデータとして保持したまま、生活を送ることでしょう』

『satellite』を検索するーー『公転軌道上に浮かぶsatelliteの数は296。satelliteは太陽光発電装置と核融合炉により電源を維持されており、内蔵するデータ記憶装置の維持管理を最優先として運行されています。satellite内において、人類達の生活は完璧に保全されています。このセカイに起こる全ての出来事が、かつての地球での生活と大きく乖離してしまい、現実感を失ってしまうことのないよう、satelliteにインストールされたオペレーションシステム『C』が、セカイ秩序を守っているからです。ここでsatellite憲章に記された詩をご紹介しましょう。作者は第一世代植民であり、satellite systemの産みの親であるアルドライド博士です』



CはSheなり
CはSeaなり
Cはprimary drive
Cは私であり師であり詩
Cは恣意
セカイを恣(ほしいまま)にする意思
我らの命をいつの日か
あの懐かしのアオい星に送るその日まで
Cはsee
我らの生活を見守るのだ
我らの意思は常に
Cと共に存在する



@@@@@

どうして僕は、こんな学習プログラムを起動したのだろう?『C』は……『神』なのか?

@@@@@


『このセカイは、単なるHDD内の仮想世界では決してありません。あらゆる物理法則、時間の概念、空間の位相、文化的活動、科学技術の発達、それらが地球と同等に維持されていますーー一部の例外を除いて』

ーー『例外』を僕は参照する。脳裏に文字群が現れ、分散して数行を形成する。



・治安維持局のobserver(監視者の意、通称ov)にインストールされる格闘プログラム。

・眼球型コンピューターMEIz(メイズ)などに代表される先進的テクノロジー。

・他人に危害を加えることの禁止。刃物、銃器の無害化。

・モブキャラクター(仮想市民)の配置。

『今起こっている全ての出来事は、virtualではなくREALです。satelliteにおける皆様の生命活動は、人類の歴史の一部となるのです。貴方が、痛いと感じるならば、その感覚は本物です。貴方が愛しいと感じるなら、その感情はREALなのです。satellite市民の皆さん。地球は貴方達の帰りを待っています。何千年……何万年……であろうとも必ず』

頬をぎゅむと抓る、それほどの痛みはない。が、確かにそれらしきものはある。
閉じた瞼の裏を見つる。と、或るクラスメートの姿が浮かぶ。

『チュートリアルを終了します』
 
事務的に音声が終了す。ライトブルーのLEDがデジタル表示を蛍のように明滅させている。朝日が昇る時刻。
学習プログラムは、このセカイの出来事すべてがREALだと断言した。が、地平線でごうごうと光をわだかまらせている太陽は、間違いなく仮想現実のそれである。それこそが真実だ。「人類が本物の太陽を見る日は、はたして来るのだろうか?」
制服の袖に腕を通すイメージを、podの中でシュミレートしながら、柄にもなく僕は、このセカイのことを考えていたんだ。

「学校に行こう」

作品名:Neutopiaの恋人 作家名:或虎