しらない子
5,小さな袋
西に日が傾いて校庭がすっかり日陰に覆われたので、五人は帰ることにしました。少年はみんなにお礼を言います。
「今日は楽しかった。ありがとう」
そこへ土居先生がやってきました。
「おまえたち、明るいうちに帰るんだぞ」
「はーーい」
「お、そうだ。フィルムが少し残っているから、撮ってやろう」
柿の木を背景にしてみんなの写真を撮ると、土居先生はオートバイで帰っていきました。
それから、裕太と俊介のふたりは正門の方へ、はるかと久美子は東門の方へ歩き出しました。
ゆみは俊介と一緒だとケンカしそうなので少し遅れて帰るつもりですが、それだけではありません。少年とこのままあっさり別れるのが寂しい気がしたからです。
「そう言えばさぁ、あんたの名前、とうとう教えてもらえなかったね」
「そんなこといいじゃない。それよりそのまり、ぼくにくれない? 今日の記念に」
ゆみはとまどいましたが、ちょっと考えてから、
「うん。わかった。大事にしてね」
と、まりを少年の手に渡しました。
「ありがとう。一生忘れない」
「やだ。大げさだよ。来年またここであえばいいじゃん」
少年のことを、都会から来た子どもだとすっかり思いこんでいるゆみは、明るく言いました。
少年はゆみの手のひらに小さな袋を乗せました。
「お礼にこれあげる。うちに帰ってから開けてね。君が忘れなかったら、きっとまた会えるから」
「ありがと」
ゆみはそれをポケットにいれました。ゆみはこれ以上少年と一緒にいるとかなしくなりそうなので、
「さよならっ」
と言うなり、くるっと背を向けて走り出しました。
そして、来たときのように二宮金次郎の像のところで立ち止まり、そっと後ろを見てみました。
少年はもういません。
日陰に覆われて青黒く立っている柿の木の、風に吹かれている姿が寂しそうに見えました。
約束通りゆみは、家に帰ってから袋を開けてみました。
「なに? これ」
中に入っていたのは柿の種です。なんだか興ざめしたような気がしました。名前も知らないあの少年と、まるで昔からの友だちのようになれたと思ったのに、ちょっとかっこいい別れ方をしたのに……とゆみは思いました。
「ま、いいか。二学期になったら、校庭の隅っこにでも植えてみようっと」
ゆみは柿の種をとりあえずランドセルにしまいました。