しらない子
4,気になる男の子
「おーい、おまえたち来てたのか」
三人が柿の木の下でおしゃべりをしていると、男の子が二人、西門の方から声をかけてきました。
「あ、裕太くんだ」
そのうちの一人が裕太だとわかると久美子は手を振りました。おませな久美子にとって裕太は気になる存在です。
もう一人はゆみのケンカ相手の俊介です。
「なあんだ。小坊主かぁ」
俊介はお寺の息子です。四年生の割に理論家で物知りなのですが、ゆみには理屈っぽく知ったかぶりに思えて、つい俊介に憎まれ口を聞きたくなってしまうのでした。
「うるさい、アヒル」
アヒルというのは俊介がゆみにつけたあだ名です。
「早速始まった。夫婦げんか」
はるかがそう言いながら笑いました。二人の口げんかは四年二組の名物なのです。
「男の子も来たの?一緒に遊ばない?」
いつのまに来たのか、あの少年がいました。
「あ、あんた。どこにいたの?」
「ありがとう、だいぶうまくなったよ」
と、少年はゆみにまりを差し出しました。文句を言おうと思っていたゆみでしたが、少年の笑顔がなぜか憎めなくて、まりだけ素直に受け取りました。
「だれ? あいつ」
裕太が小声で久美子に聞きました。
「知らない。ゆみちゃんの知り合い」
と、久美子が答えました。すると俊介が、
「物好きなヤツだな」
と言いました。それがゆみの耳に入りました。ゆみは言い返します。
「ふうんだ。そっちこそ海にも行かないで、真っ白な顔しちゃってさ。男らしくないね」
「ふん。大きなお世話だ。おまえこそ泳いでいりゃいいんだ。アヒルなんだから」
俊介も負けてはいません。ゆみは悔しくなって、
「おあいにくさま。今年は泳げないんですよーだ」
と左腕を突き出してBCGのあとを見せました。BCGを接種した子どもは、海で泳いではいけないと先生から言われているからです。
すると、俊介はげらげら笑い出しました。
「こりゃ、おかしいや。アヒルがBCGだってさ」
ゆみは(しまった)と内心思いました。自分からつっこみのネタを出してしまったのですから。
「で、どうすんの? 遊ぶ?」
ゆみがぶっきらぼうに聞くと、俊介はいいました。
「おれたち、ウサギ当番なんだ。掃除して来なきゃ」
「あーーあ、いけないんだよ。午前中にするんだよ。ウサギがかわいそう」