しらない子
安心したのか、久美子が気の抜けたような声を出しました。
「人聞きが悪いな。今日は日直で見回ってたんだぞ」
先生は苦笑いしました。ゆみは先生の肩にカメラがぶら下がっているのを見ました。ゆみの視線に気づいた先生は、
「ああ、見回りのついでに教室を撮しておこうと思ってな」
と、また少し寂しそうな目をしました。
「そうか。じゃあ、フラッシュが光ったんだ。久美ちゃんてば大騒ぎして」
はるかが久美子をとがめました。
「だってぇ。いつもゆみちゃんがお化けの話をするからいけないのよ」
ばつの悪い久美子はゆみのせいにしています。すると先生が笑い出しました。
「はっはっは。いや、出るかもしれないぞ。ここは無縁仏の墓があった山のてっぺんを崩して建てたんだからな」
そうして手を、胸の前にぶらぶらさせてお化けのまねをして見せました。
「いやだなぁ、先生。おどかさないで」
けれど先生は真顔になって、声をひそめて言いました。
「本当だよ。わたしがもっと若いときな、宿直の夜に人魂を見たことがあるんだ」
「きゃあ」
悲鳴をあげたのはもちろん久美子です。先生はかまわず続けます。
「雨がしとしと降っててな。柿の木の向こう側だ。ほら、あの高台のてっぺん……」
先生が指さした高台は、今は草木が茂っていますが、整地したとき削られた名残で壁のようになっています。ゆみはいつだったか、そこに登ったガキ大将が墓石を見たと言っていたのを思い出しました。
ゆみとはるかはごくっとつばを飲み込みました。久美子は耳をふさいでいます。
「職員室の窓から赤いものが見えたんだ。何かと思ってじっと見ていたら、いきなりふわ〜〜〜〜っと」
先生は両手を振り上げました。
「きゃあ、きゃあ」
久美子は今にも泣き出しそうです。先生はわざと久美子を怖がらせておもしろがっているようです。久美子はぷりぷり怒ってさっさと外へ出て行ってしまいました。