しらない子
3,幽霊の正体
強い日差しが照りつける真夏だというのに、三年生の校舎はどんよりと暗く、廊下全体がなんとなく黄色っぽく見えます。それは屋根の際まで枝を張り出している木々の葉が日光を遮っているからでした。
風が吹いて木々の枝がゆれると、水玉模様の木もれ日が差し込んで廊下に映ります。実はこの光の水玉模様がゆらゆらゆれる黄色い廊下を、ゆみはひそかに『異次元世界』と呼んでおもしろがっていました。
けれど久美子は違います。
「わたし、ここ気味が悪くていやよ」
と、はるかにしがみついています。
「暑いよ。久美ちゃん」
はるかは久美子の手をふりほどこうとし、久美子は離れまいとくっついて二人はもみ合っていました。
その間にもゆみはずんずん歩いて、一年生の教室への渡り廊下を曲がりかけています。はるかと久美子の視界からゆみが消えたとき、突然ゆみが大声を上げました。
「うわっ」
それにつられて久美子までが叫びました。
「きゃあ!」
「なんであんたまでそんな声を出すのよ」
はるかはあきれ顔です。
「だってぇ」
「とにかく、早くゆみちゃんのところへ行こうよ」
ふだんはのんびりやのはるかもこんな時は頼りになるのです。
ゆみの目の前に現れたのは六年生の担任の土居先生でした。この小学校に十五年も勤めているベテランで、背が高くがっしりした体格の体育の先生です。
廊下の角を曲がったとたん、二人は鉢合わせしたのです。
「なんだ。ちびゆみじゃないか」
先生も少しびっくりしたようです。土居先生はゆみの姉や兄を教えたことがあるので、ゆみのことをよく知っています。それで「ちびゆみ」と呼んでからかうのでした。
はるかと久美子がやってきました。そして土居先生を見るとほっとした顔つきになりました。
「お。いつもの三人組か。何しに来たんだ?」
「あたしたち、この校舎にお別れを言いに来たんです」
三人が声をそろえて言うと、
「そうか。そうだよな……」
先生は、ちょっと弱々しい口調で相づちを打ちました。長くこの校舎と過ごしてきた先生です。きっと寂しいに違いありません。
ゆみたちはこれまで運動会の行進の練習を厳しく指導する、こわい土居先生の顔しか知りませんでしたが、今違う一面を見たような気がしました。
「でも、よかった。幽霊じゃなくて」