しらない子
2,校内探検
「ゆみちゃぁぁん」
かすかに声が聞こえてきました。見ると、柿の木から一番遠い東門からはるかと久美子が手を振っています。
「はるかちゃぁん。くみちゃぁん」
ゆみも小さな身体をせいいっぱいのばして手を振ります。
ふたりは校庭を真横に突っ切って走ってきました。久美子はお下げをぴょんぴょん揺らしています。大柄でちょっと太めのはるかは苦しそうです。
ゆみのそばにやってきたはるかは肩で息をしながら柿の木の根元に座り込みました。
「ああ、疲れたぁ」
久美子はハンカチで汗をぬぐいます。
「ごめんね。待たせちゃって」
「ううん。今ね、あの子とまりつきしてたんだ」
ゆみは少年のいるほうを指さしました。ところが少年の姿がありません。
「あれぇ?」
「あっちからはゆみちゃんしかみえなかったよ。ね、はるかちゃん」
「うん。そうだよね」
二人の返事にゆみは首をかしげます。
「まり、貸したんだけどな」
「いつもの赤いの?」
はるかが聞き返しました。
「うん」
がっかりした声で答えたゆみですが、思い直して言いました。
「ま、いいや。あたしが帰るまでって言ってあるから。ねえ、かくれんぼでもしよう!」
四年生の中でも小柄なゆみですが、元気のいいのと思い切りの良さはクラスで一番です。久美子はおませで大人びていて、はるかはおっとりしたのんびりやです。三人とも幼稚園のころからの仲良しでした。
じゃんけんでゆみが鬼になりました。
ゆみが柿の木にもたれて数を数えはじめると、はるかと久美子はぱっと走り出しました。百数える間にかくれるのですが、かくれる場所の範囲は決めてあります。
柿の木から向かって右は職員室の前にあるオウチの木まで、左は三年生の下駄箱までで、それより先へは行かないことになっています。
職員室の左側から順に理科室、四年生の下駄箱があってその隣に四年生の教室があります。そして渡り廊下でつながった三年生の校舎があります。
「九十九、ひゃぁくっと!」
ゆみは向き直って校舎を見回しました。
「さぁてっと、どこから探そうかなぁ」
といいながらも、迷わず四年生の下駄箱に向かって駆け出しました。