しらない子
「いってー」
ゆみは思いっきり俊介のすねを蹴飛ばし、あかんべーをして教室に戻りました。
放課後、ゆみは草むらを探しました。種が落ちたあたりの草をかき分けてみましたが、みつかりません。草むらの先は急な斜面で杉林になっています。
「ゆみちゃん、危ないよ」
はるかと久美子の心配をよそに、ゆみは急斜面の方まで降りて探しましたが、結局見つけることはできず、日が暮れてきたのであきらめて家に帰りました。
それからしばらくの間ゆみは、あの少年のことが気になっていましたが、季節の移り変わりとともにその記憶も薄らいでいったのです。
五年生の夏休みに新校舎の落成式がありました。鉄筋で三階建てのりっぱな校舎です。
わくわくしながら中へはいると、机やいすまで新しいスチール製のものになっていました。
そして、真新しい黒板で行事予定を書き込んだり、壁に時間割表を貼ったりするうちに、明るくきれいな校舎が、もともと自分たちの校舎だったような錯覚をおこすのでした。
あれほど残念がっていた旧校舎の取り壊しも、もう寂しいとは思わなくなっていました。