紫音の夜 1~3
「願い事、そんなにたくさんできたの?」
「しまった、忘れてた」
あまり残念そうな気配もなく、とぼけた応答に葉月は吹き出した。
「『ナイツ』っていうバンド名、ぴったりじゃない。真夜中の真夜、なんでしょ?」
「お笑いのコンビ名みたいでいやなんだよ。いいっていうなら、篠山さんが相方やってくれるの?」
真夜の指先がわずかに動いた。
葉月は指をからめて握り返した。
「いいよ」と言いかけたその時、真夜が手をふりほどいて立ち上がった。
「やめといた方がいい」
吐きだされた言葉に耳を疑っていると、真夜は葉月から視線をそらしたままもう一度つぶやいた。
「やっぱりやめといた方がいいよ」
今度は返事ができなかった。葉月の心はとっくに決まっていた。
たとえ真夜や伶次の心変わりがあったとしても、身を引くつもりはなかった。
土下座をしてでも、真夜の音色をもっとそばで聞きたいと思っていた。
夜空の天盤に浮かぶ数限りない星々が、真夜の全身にふり落ちそうなほどに瞬いていた。