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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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 古くから寺は地域社会の中心になる事が多く、ここも自治会の夏祭りの会場になるなど地域住民には親しみ深い所である。
 さらにここの住職は消防団の先輩であり個人的に親交がある。俺は電話でアポを取り即座に駆けつけた。
 ジュンには帰るか会社で待っていろと言ったのだがついてきた。普通の女の子なら目の前でヤクザと殴り合いなんかやったら真っ青になって逃げていくだろう。その辺はまぁ肝が据わっているというかなんというか…… まぁ考えてみればこいつと出会った日にも銃撃戦を何度かやったし今日なんか銃声の一つもしなかったからヤツにしてみれば穏やかな日常だったのだろう…… いや、んなわけないか。
「なんでヤクザの坊ちゃんに会いに行くの?」
 まるで質問してこなかったジュンだがさすがに好奇心に負けたか聞いてきた。
「情報屋の話じゃ、坊ちゃんロイってんだがリックによく絡んでいたらしい。夏休みに入っても特に最近よく呼び出していたという事だ。何か知っているかもしれない」
「ふうん?」
 納得していない顔だ。それだけじゃないでしょ? と言いたいのを堪えたようだ。
お気遣い感謝します。企業秘密もあるし知らない方がお前の身の安全にも繋がる事もある。こいつはその辺わかっているのだ。
 もちろんそれだけでやっては来ないのだがまだ確証は無い。
「やあ風見君、急になんだい」
 住職はいつもどおりの笑顔で迎えてくれた。まだ30そこそこの若さだ。
 髪を剃っているからまず解らないがクォーターらしい。ウィリアムというミドルネームを持っている。
 俺が答える前に後ろにいたジュンが挨拶したものだから住職の視線は自然そっちに行った。
「自慢の彼女だね? 噂以上にかわいいね」
 本人を前にしてストレートな表現がいやらしく感じないのは聖職者の重みなんだろうか。
 言われたジュンの方は柔らかく笑っているだけに違いない。照れはしていないだろう。「かわいい」なんて言われ慣れてるだろうからな。俺は苦笑いしつつ返す。
「奥さんには負けますが」
 住職の奥さんは地元で評判の美人だ。どうやってだまし…… もとい連れて来たのかは今も地域の議論の的だ。
 さて、仕事。
「人を探しているんですよ。こちらにきたんじゃないかと思いまして」
 黒沢兄妹の写真を見せる。
 住職は四角い顔の真ん中にあるやや小さな瞳でじっと写真を見て答えた。
「あ、この子リック君といた子だ」
 ビンゴだ。リックと繋がった。
「ラギエン通りのイタリアレストランの息子さんですよね? ご存知なんですか?」
「ええ、うちに勉強に来てる子の友達で。ちょうど今来てるんじゃないかな?」
 ラッキーだ。動き出してきた。
 本堂で勉強しているというロイとリックの案内してもらった。独断と偏見だが勉強なんかしているわけは無い。リックはともかくロイの方はヤクザのボンボンにふさわしいバカ息子らしい。ここに隠しているはずなのにすんなり存在を認めたと言う事は住職は事情を聞いていないくて本気で勉強に来ていると思っているのだろう。
 真夏にしては御堂はひんやりとしているような気がした。天井が高いのとイメージではなかろうか。だだっ広い板の間の真ん中に茣蓙を引き、折りたたみのテーブルを置いてラテン系と黒人の中学生は座っていた。
リックはラテン系のやせ型、おねーさんに似たやや赤毛を短髪にした気の弱そうな風貌だった。ロイの方は名前の割に東洋人に見える。住職みたいなクォーターだろうか。そこまでの情報は持っていない。そういえば親である親分さんは東洋人だ。こいつの方は想像通りの悪そうな眼付中肉中背Tシャツにダメージジーンズといったいでたちだった。
 驚かさないように住職から入っていってもらったのだが俺達に気づくと二人はビクリと肩を動かした。住職にはせいぜいサボっているのがばれたくらいに思えただろう。
 住職には席を外してもらって俺は二人に声をかけた。
「俺は便利屋BIG-GUNって者だ。人を探してるんだ。話を聞かせてくれないか」
 二人は明らかに困惑していた。俺は構わず続ける。
「知っているだろ? 黒沢瞳」
 その名を聞いた途端リックは外に飛び出した。俺もすかさず追う。
 本堂にいたからリックは裸足だ。裸足で逃げ出すとは正にこのこと。案の定庭の石を踏み痛くて走れないようだった。もとより俺の方が速そうだし捕まえるのは時間の問題だった。
 しかしそこに邪魔が入った。
 黒いバイクがリックの前に立ちはだかった。
 リックがつんのめるように立ちすくむとバイクの男はヘルメットを取った。
「リック・ディモンドだな? やはりここに現れたか」
 驚いた。
バイクの男は今回のターゲットそのもの。
黒沢玲司その人だった。
 夏だと言うのに全身黒のスーツに身を包んだ長身のボディーガードは固まった赤毛の少年を切れ長の冷たい瞳で見据えた。
「俺と来てもらおう。黒沢瞳について聞かせてもらう」
 ここでも瞳の名はスイッチになった。リックはビクンと跳ねて、また逃げ出した。
 黒沢さんは予想していたのだろう。全く動じず次の動きに入った。
 すらりと懐から銃を取り出した。ワルサーP38、こらまた渋い。
 止める間もなく引き金が引かれた。リックの足元に着弾しヤツをまた立ち止まらせた。
「次は当てる。口さえ聞ければ手足は必要ない」
 威嚇…… なのだろうがこの人の冷たい声で言われれば本気に聞こえる。
 俺は一瞬だけ黒沢さんの横顔を確認する。
 いつものように無表情。しかし何か感じる。2発目は確実に当てる。
「まて、撃つな」
 叫んだのはリックではなく俺だった。
 ダッシュして二人の間に入る。黒沢さんは初めて俺に気づいたようだ。
「風見君か、君には関係ない。どいてくれ」
 銃はまだ構えられたままだ。つまりリックと、俺に向いている。
「ある。鍵さんからアンタを探すように依頼されている。犯罪者になられたら連れて帰れない」
 鍵さんの名に少しだけ感情が流れた。
「俺はもう社長とは縁のない男だ。放っておいてもらおう」
アンタと鍵さんの縁がそんなに簡単に切れるのか。
「それに俺を連れて帰れるか? いかに君と言えど」
 長い足を振り回し力強い動きで彼はバイクを降りた。俺より10cmは背がある。手足も長い。スーツ越しでも鍛え抜かれた肉体がわかる。
「邪魔するなら排除する」
 言葉とは裏腹に銃をしまった。素手でやろうってことか。緊張が全身に走った。
「ケンちゃん」
 後方からパタパタと言う足音がしてジュンが現れた。心配で飛び出してきたか。
「よく裸足で痛くないわね」
 こいつ…… この状況で。
「俺はそういう訓練もしているんだよ」
「いろんな変な事勉強してるのねぇ」
 お前をとっちめる方法を学ばなかったことは残念だ。
「履く?」
 一瞬だけ振り返るとジュンは両手に靴をぶら下げていた。気の利くやつ、靴を持ってきてくれた。リックの分も。
 黒沢さんに視線を戻す。この緊張感のない会話にも動じず俺を注視している。ものすごい集中力だ。
「アンタが手荒な真似するなら止める。力づくで」
「よかろう」
 一歩近づく。すり足だ。武道の動き。
「待て、女の子が持って来てくれたんだ。靴はく時間ぐらいくれるだろうな」