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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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 動きが止まった。
「いいだろう。君とは一度全力でやりあってみたかった」
 俺は勘弁して欲しいがな。
 正々堂々か。俺の辞書には無い言葉だ。俺なら勝つためには少しでも有利な状況に持っていく。黒沢さんと俺の職業の差だろう。
 ジュンから受け取って靴を履く。リックは腰を抜かしたのか履こうとしない。世話の焼けるヤツだ。ここでもジュンが動いてくれた。リックの足元に靴を置いて顔を覗き込んだ。
「履ける?」
「だ、大丈夫です」
リックはあわてて履きだした。ちょっと赤くなっていた。
命拾いしたな、もし履かせてもらったら俺がぶん殴るところだった。
 ゆっくり腕を振りながら黒沢さんに視線を戻す。
「素手でアンタに勝てるかな」
「俺はこの距離なら素手の方が得意なだけだ。君は銃を使ってもいいぞ」
 俺は苦笑した。いくら凄腕とはいえ素手の相手に? お寺の中で?
 ちらりとジュンを視界に入れた。
 女の前で?
「そうもいかんでしょ」
 俺は構えた。空手で言うところの猫足立ち。片足つま先で立ち俊敏性を確保する。
 黒沢さんも構えた。変わった構えだ。
 右利きのはずだが右側が前。両腕は垂直に顔の前、これは普通だが両手とも甲の方をこちらに向けている。一番特異なのは下半身。俺と同じく猫足だが内股でクリクリと振るようにリズムを取っている。足の運びはすり足。こいつは。
 拳が飛んできた。俺の左側から視界の外を通るように鋭いフック。いや手首を外側に曲げ付け根の硬い部分での攻撃。考える前に左手で受けると間髪入れず右から来た。これも受ける。 鬼のような連打が来た。左右交互の攻撃ではない。右が連打されたり左だったり、時にはローキックも来る。
 一打一打が重くは無い。ペチペチと当ててくる。しかしダメージが蓄積してくる。両腕やすねが確実に重くなってくる。
 BIG-GUNの活動服は内側に樹脂製のプロテクターが仕込まれている。その上から打ち込んでなお俺にダメージを与えてくる。
 こいつはまずい。
 俺は無様だが後方に飛びのいて一端間合いをあけた。黒沢さんは詰めてこなかった。いつでも攻撃できる自信があるのだろう。
「骨法か」
 戦国時代、素手で鎧武者を倒すために編み出された技。
 右前なのは心臓を守るため。内股なのは股間を守るためだ。
 かぶとの視界の外から鋭い攻撃を繰り出し鎧の上からダメージを与える。
「スポーツ」でも「武道」でも無い。完全な実戦の格闘技。
 人を殺すための「武術」だ。
「一発も入らなかった。さすがだな」
 構えを解かず全く表情を崩さず感情も入れずにそう言った。俺への賞賛でなく俺の技量を値踏みしただけだ。
 形勢悪い。ここは一応説得を試みよう。
「手荒な真似をしないなら俺はアンタの敵じゃ無い。こいつから情報を聞いて妹さんを探すのを手伝ってもいい。だから一度鍵さんの所へ帰ってくれ」
 黒沢さんの表情がまた変わった。自信に満ちていた顔に翳り。
「それはできん」
「何故だ。妹さんの他に帰れない理由があるのか」
「だまれ」
 明らかに狼狽していた。こういう無骨な男は自分の事では嘘も隠し事も下手だ。
 やはり…… なにかある。
 攻撃が再開された。またフックが連打される。
 しかし感情の乱れは技に出る。ごくわずかな劣化だが俺だって「プロ」だ。
 やや雑になったフックの帰り際にあわせ踏み込む。前蹴りが来た。予想通り。俺はそれを右足で蹴る。技の出はじめを止められるとどんな達人も若干の隙が出来る。当たったすねを軸に体を360度回転、後ろに回りこみ背中合わせになる。重心を落とし体を密着させ相手のバランスを崩しつつ全体重を乗せて背中から体当たりした。
「うお」
 呻き声を上げ黒沢さんの体は前方に3mは吹っ飛んだ。
「八極拳?」
 回転して受身を取り立ち上がったが少し足に来ているようだ。
「…… の真似だ」
 八極拳とは中国拳法の一つで基本は接近寸打。要するに密着して一撃必殺の技を叩き込むタイプの拳法だ。達人なら掌ていによる一撃で相手の肺をつぶし数mぶっ飛ばすといわれている。発勁という技だ。
 西洋の人間はオカルトだと長く決め付けていたが、完璧にコピーしたモーションでサンドバックを打ったところボクサーの倍の破壊力があったそうだ。
 俺のは完全な八極拳ではなく多くの格闘技をマスターした俺の師匠に教え込まれたアレンジバージョンだ。
「さすがに…… な、ただの子供では無いな」
 黒沢さんはなお構えた。表情は一格闘家になっていた。構えに一分の隙も無い。
 恰好のいい人だ。思わず見とれてしまう。
 相棒の三郎は女にもてるが、この人には男を魅了する力がある。
 俺も構えなおしたところ突然サイレンが聞こえてきた。警察だ。このあたりは田んぼばかりで見晴らしがいい。農道を突き進んでくるパトカーが見えた。
 リックが逃げ出した。そういえば警察にも追われてたんだっけ。
 黒沢さんは舌打ちするとバイクにまたがった。追うのかと思ったらアクセルターンをかけ反対を向いた。
「風見君、勝負とそいつは預けた。警察に渡すな」
 あいよ。俺もそのつもりだ。
 俺はジュンにBIG-GUNに行く様指示しリックを追った。

 赤毛の少年は田んぼのあぜ道を走り裏山に向かっていた。俺はわざと追いつかず山に入るのを待つ。どうせ警察からは逃げなきゃならんのだ。
山に入り小さいが森に入ったので下界から視線が切れると俺は声をかけた。
「もう大丈夫だ。ちょっと待て」
 リックは怯えた顔で振り返ったが足を止めなかった。しかし体力がそんなにあるわけではない。ここまで走ってきたこと、山の斜面がきつくなってきたことで歩くより遅いスピードとなっていた。俺はというと毎日朝10kmを30分で走破している。こんなスピードなら1日だって走り続けられる。
「今は休め、見ただろ。俺はとりあえず味方だ」
 味方という言葉に反応したのだろう。リックは足を止めた。
 追われる身には一番欲している言葉だからだ。
 うなだれて振り返り息を切らせて腰を落とした。俺は木に寄りかかって立ったまま。
「俺は風見健、さっきも言ったが便利屋で警察じゃ無い。何があったんだ。話してみろ」
 リックは黙ったままだ。
「俺はお前の事件には直接関係ない。さっきのおっかないお兄さんを元の会社に連れ帰りたいだけだ。そのためにこの事件を解決する必要がある。このまま逃げたっていつか捕まって拷問されて口を割らされるだけだ。俺に話したほうがナンボかましだと思うぞ」
 リックは怯えてちらちらと俺を見上げることしか出来ない。めんどくせぇなぁ。
「それよりお前携帯持ってないか?」
 リックは、え? という顔をしたが持っていると小さく言った。
「すぐに電源を切れ。警察から逃げてんだろ。携帯の電源入れてたら発信機持ち歩いてるのと同じだぞ」
 やつは慌てて取り出し携帯のスイッチを押し出した。
 警察がやけに早く来た。おそらくリックの携帯を探知して近くを探していたんだろう。そこにきて銃声だ。駆けつけてきて当然だろう。俺の携帯も一応切っておく。連絡が入らなくなるのは痛いが今は仕方ない。
「さて…… 話せよ。お前と黒沢瞳に何があった」
 赤毛の坊やはまだ話さない。