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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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国道1号を走ってラギエン通りを右折。波乗り踏み切りを越えてしばらくするとその店「ディアス」はあった。ラギエン通りは狭目の道で駐車場が無いところも多いが幸いここは二つだけとめられるようになっていた。オイル仕上げの木張りの壁を持つ古風な感じの小さな店だ。
「へー、この街らしい店ね」
 ミニスカートをなびかせながらジュンはストンとプジョーを降りた。小型車だが首を傾げなくても降りられるところも我が愛車の美点だ。モワッとする熱気から逃げるように俺達は店に小走りで入った。
「いらっしゃいませ」
 涼しげな風が吹いた。
 クーラーの風ではない。それに匹敵する爽やかな女性の声が俺を迎えてくれた。
 さっきの黒メイドさんとは格が違う。
「あ、どうも」
 俺はつい愛想笑いをしながら頭をかいてしまった。
 赤毛ロングヘアーの白人。瞳が大きく細面な天使がそこにいた。化粧気の無い白いTシャツにスリムなブルージーンズ、その上に水色のエプロンというややボーイッシュな服装だが背が高く見事なプロポーションなため逆に女らしさを強調して見えた。
 歳は俺より上、20歳のはず。自然な笑みを湛えて俺を見つめていた。
「お好きな席へどうぞ」
 一瞬立ち尽くしていた俺に彼女は優しく微笑んだ。
 俺の取れる行動はたった一つ。
「ああ、はい」
 と笑ってテーブルに着くことだけだった。
 店内はやはり狭い。テーブルが3つ置いてあるだけだ。中も木張りでアンティークな家具やアイテムで飾られている。
「いやあ、いい店だねぇ」
 誰に言うわけでもなくつぶやいたらジュンが小声で突っ込んできた。
「ちょっと! 座ってどうすんのよ。調査にきたんでしょ」
 そういえばそうだった。
「まぁいいじゃないか、軽食くらい」
 何故か笑顔になっている俺であった。
「さっきたこ焼食べたばっかり。それと何よそよそしいしゃべり方に切り替えてんのよ」
 ジュンの視線にやや軽蔑が混じってきた。
 そうですか? 僕はいつも紳士的に話してますよ?
 するとジュンは冷ややかな声で言った。
「ケンちゃんってロングのストレートに弱いわよね」
 む…… 確かに。ロングのストレートはリーサルウェポンと言えるだろう。しかしそれだけが全てではない。最近流行のツインテールは強力だし古典的なポニーテールも捨てがたい。逆にボーイッシュなショートもぐっと来るものがある。
「なんでもいいんじゃない」
 また人の思考を読みやがって。読唇術どころかテレパスなのか?!
「…… ウェーブのロングとかブロンドもいいと思いますよ?」
「そりゃどうも」
 やや波打つ豊かな金髪をふわりと背中に払ってジュンは冷ややかに返した。
 こう言っちゃ何ですがね、ロングのストレートは誰だって好きだ。男に質問して回れば人気上位は確実。特に黒髪の場合は決定的だ。嫌いという男は絶対にいないだろう。だが何故か女はパーマをかけてみたり茶色に染めてみたり劣化を図ろうとする。一体誰のためにやっているのだろう。
「お決まりですか?」
 そこへ赤毛の天使が俺達の席にやってきて俺を現実に引き戻した。
「レモンティーを下さい」
 ジュンは即答した。こいつメニューも開かず…… 俺も慌てて品を決める。
「じゃあアイスコーヒーとナポリタンを」
 するとおねーさんは苦笑した。
「ごめんなさい、うちナポリタンはやっていないんです」
「イタリア料理屋なのに?」
 素朴な疑問に彼女はちらりとカウンターの向こうの厨房を見て答えた。
「ナポリタンはイタリア料理じゃ無いと、シェフが」
 シェフというのは彼女の父親のはずだ。仕事中は切り替えてシェフと呼ぶのだろう。好感が持てる。
 俺は慌ててメニューを開き直し無様に「えーと…… じゃあ何にしよう」などと醜態を晒した。
 泣けるぜ。
いつもミートソースの方が好きでナポリタンなんか頼まないのだが何故今日に限ってこんな失態を。マジで少しブルーになる俺だった
 すると赤毛のおねーさんは優しく声をかけてくれた。
「レモンカレーを是非お試しください」
 あ、じゃあそれで。と、応える俺には目の前の美しい人がマジ天使に見えた。
 お待ちください、と優雅にターンを決める天使様をうっとりと見送る俺にジュンは冷淡に声をかけた。
「仕事しなさいよ」
 えーい、部外者に言われる筋合いは無い。
「ところでナポリタンがイタリア料理じゃ無いってどういうこと?」
 丸い瞳をさらに大きくして聞いてきた。意外だな、よく知っているかと思った。
「ナポリタンは昔ナポリターナっていうスパゲティをこの国で手に入りにくい食材を省いて作られたという説があるのさ。実際にイタリアでナポリタンは作られていない」
「肉じゃがみたいに和製洋食ってわけね」
 まぁそんなところだ。ちなみに天津飯も和製中華だ。
 料理は意外と早く届き軽く平らげる。む、うまい。こだわっているだけの事はある。
 もう少しせっせと働くおねーさんを眺めていたいところだがそろそろ仕事に入ろうか。目の前の小娘もうるさいし。
 俺は少し余所行きの声に切り替えて話しかけた。
「あの、リック君のお姉さんですよね? 彼家にいますか?」
 ぴくっと表情が止まった。弟の名前を聞いた姉の顔じゃ無い。怯え、恐れか?
 彼女が何か言う前に俺は続けた。緊張を解くためハードルを下げる。
「彼と知り合いってほどでは無いんですけど以前友達と一緒に会って。その子と連絡が取れなくなっちゃったんで彼なら何か知ってるかなと」
 あくまで善良な少年の顔、声、仕草。今のところ完璧。彼女は振り返ってくれた。俺と同じく自然を装って。
「そうなんですか、でもあの子も何日か前から帰ってこなくて」
 硬い声だった。しかし弟を心配する姉の思いも確かに混じってはいた。嘘では無いだろう。俺は柔らかく笑って続けた。
「まあ、彼中学生でしたっけ? その頃には僕も友達と夜通し遊んでましたよ。でも彼は夜遊びしてお姉さんに心配かけるようなタイプには見えなかったな」
 少し彼女の表情が溶けた。
「ええ、大人しい子で外出もあんまりしなかったんですが。あの…… お友達もいなくなったって…… その子と一緒に何かあったんでしょうか?」
 俺は頭をかく。
「これは…… 変な事聞かせちゃいましたね。心配事増やしちゃいましたか。黒沢って子なんですがあの子も真面目な子なんで変な事にはなってないと思いますよ」
 彼女は「ああ、あの娘」と頷いていた。瞳を知っているのか。情報は正しかったようだ。
「よし、リック君も一緒に探してみますよ。友達をつないでいけば見つかるでしょう。多分誰かの家に入り浸っているんだと思いますよ。連絡先はここでいいですか?」
 俺はテーブルに置いてあった店の名刺をつまんだ。お姉さんは首を振ってエプロンからスマホを取り出した。
「いえ、連絡は私に。アリア・ディモンドと申します」
 俺も頷いて携帯を取り出す。
「じゃあ、彼が帰ってきたら僕の方にも連絡お願いします」

 店を出て車に乗るとジュンが口を開いた。
「やるわねケンちゃん」
「何が」
 ジュンはふふっと笑って語りだした。