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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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 あいかわらずの甲高い声で返してきた。
「駅からガミ線に向かった辺りモチキの前のマンションだ。似てると思っただけだ。逃げられた」
「何やってるんですかー!」
 耳が痛い。
「本人と決まったわけじゃ無い。写真もってたら送れ。スマホの方に」
「わかりました、でも多分本人です」
「なんで」
「モチキの前のマンションの3階ですよね? お姉ちゃんの友達の家です」
「友達の名前は?」
「えーと確か黒沢さんです。黒沢瞳さん」
 なんだと。
 彼女が立っていた部屋の前に移動する。確かに黒沢さんの部屋だ。
「とにかく写真をくれ、話は後で聞く」
「だから朝話を聞いてくれればー」
 確かにその通りだ。
くだらないと思ったことでも情報は貪欲に吸収しろ。
師匠の教えだった。ドジった。
俺は電話を切り、とりあえず部屋を探ることにした。
おじゃましまーす。やはり帰っていない。
ムッとした熱気が充満している。朝から換気も冷房もされていないのは明白だ。
3LDK、一人暮らしにしては広い。キチンと整頓掃除されている。黒沢さんの性格そのものの部屋だ。一つ鍵のかかった部屋があった。合鍵は無い。一人暮らしの家で部屋に鍵? 怪しい。
「妹さんの部屋じゃ無いの?」
 扉にタックルをかまそうと仕掛けた時、背後からジュンが可能性を提示した。
 ああなるほど、今は寮住まいとはいえ実家はここなわけだ。今は夏休みだし学期中も週末には帰ってくるのかもしれない。危なく女の子の部屋のドアぶち破るところだった。
「なんで妹さんがいると?」
 知ってるんだ? この女。電話の会話を聞いたのか? まさか貴様も読唇術を?!
「黒沢さんに聞いたよ、初めて会ったとき」
 そういえば面識があるんだったな。どうも今日は冴えない。
 瞳の部屋はあきらめ室内を探索する。居間、寝室、台所。天井にサーフボードがぶら下がっている以外生活感すら希薄な部屋だ。女の匂いすらしない。黒沢さんもてるだろうに。
 ジュンは後ろで「黒澤さんサーフィンやるんだ、かっこいー」などと俺に聞こえるようにつぶやいていやがった。
 この街は確かにサーフィンのメッカで老若男女問わずサーフィンしている人は多い。
 そして黒澤さんもかっこいい人だが、だからといってサーフィンしていない俺がかっこ悪いわけではない。
 と、思わんか? と振り返ったらジュンは大きな瞳をさらにまあるくして「何言ってんの」と首をかしげた。
 視線を仕事に戻すと今度は「私もやろうかなー、サーフィン」などといい始めた。
 サーフボードを抱えた水着姿のジュンを想像して一瞬鼻の下が伸びたが内緒である。
 で、結局何の情報を得られぬまま俺達は部屋を出た。森野から写真が送られている。確かにさっきの子だ。簡単なプロフィールも添えられている。
 森野さち。松森中3年。妹より少し品がある顔をしている。姉はピース学園じゃなく公立校か。あ、そうだ。
「お前黒沢瞳さんって知ってる? ピンフの3年生何だが」
「ピンフ言うな」
 ピンフとはジュン達の学校私立ピース学園の蔑称、いや別称だ。ジュンは一瞬眦を少し吊り上げたが答えてくれた。
「私も6月に入学したばかりだし、よほど有名な人じゃ無いと知らないよ。学校裏サイトでも聞いたこと無い名前だよ」
 教育上よくないサイト見てるなぁ。そのサイトお前の名前はよく出てるんだろうな。美人ランキング上位らしい。森野が前に言ってた。
 さて黒沢さん本人の情報が無いとなると瞳の方を探すしかないな。
 黒沢さんが突然会社を辞めるとなると事件性ありと見るべきだ。時を同じくして妹瞳も失踪している。彼女に何かあった。それを探している…。が今立てられる有力な仮説だろう。さらに森野の姉さちも絡んでいるようだ。
 この二人から追ってみるか。情報屋に連絡してから俺はエンタープライズに戻り現状を鍵さんに報告した。瞳の失踪を鍵さんはやはり知らなかった。がっくりと肩を落とし自分を責めているようだった。側近の妹の事でそこまで? 疑問に思ったが俺は調査を続行することにした。
プジョーに乗り込み来た道を戻る。学校に行っても今は夏休みだ。生徒も教師もいない可能性が高い。ならばもう一つの手がかりリック・ディモンドだ。自宅はわかっている。ラギエン通りのイタ飯屋さんだ。
1国を走ってラギエン通りを右折。波乗り踏み切りを越えてしばらくするとその店「ディアス」はあった。ラギエン通りは狭目の道で駐車場が無いところも多いが幸いここは二つだけとめられるようになっていた。オイル仕上げの木張りの壁を持つ古風な感じの小さな店だ。
「へー、この街らしい店ね」
 ミニスカートをなびかせながらジュンはストンとプジョーを降りた。小型車だが首を傾げなくても降りられるところも我が愛車の美点だ。モワッとする熱気から逃げるように俺達は店に小走りで入った。
「いらっしゃいませ」
 涼しげな風が吹いた。
 クーラーの風ではない。それに匹敵する爽やかな女性の声が俺を迎えてくれた。
 さっきの黒メイドさんとは格が違う。
「あ、どうも」
 俺はつい愛想笑いをしながら頭をかいてしまった。
 赤毛ロングヘアーの白人。瞳が大きく細面な天使がそこにいた。化粧気の無い白いTシャツにスリムなブルージーンズ、その上に水色のエプロンというややボーイッシュな服装だが背が高く見事なプロポーションなため逆に女らしさを強調して見えた。
 歳は俺より上、20歳のはず。自然な笑みを湛えて俺を見つめていた。
「お好きな席へどうぞ」
 一瞬立ち尽くしていた俺に彼女は優しく微笑んだ。
 俺の取れる行動はたった一つ。
「ああ、はい」
 と笑ってテーブルに着くことだけだった。
 店内はやはり狭い。テーブルが3つ置いてあるだけだ。中も木張りでアンティークな家具やアイテムで飾られている。
「いやあ、いい店だねぇ」
 誰に言うわけでもなくつぶやいたらジュンが小声で突っ込んできた。
「ちょっと! 座ってどうすんのよ。調査にきたんでしょ」
 そういえばそうだった。
「まぁいいじゃないか、軽食くらい」
 何故か笑顔になっている俺であった。
「さっきたこ焼食べたばっかり。それと何よそよそしいしゃべり方に切り替えてんのよ」
 ジュンの視線にやや軽蔑が混じってきた。
 そうですか? 僕はいつも紳士的に話してますよ?
「ケンちゃんってロングのストレートに弱いわよね」
 む…確かに。ロングのストレートはリーサルウェポンと言えるだろう。しかしそれだけが全てではない。最近流行のツインテールは強力だしポニーテールも捨てがたい。逆にボーイッシュなショートもぐっと来るものがある。
「なんでもいいんじゃない」
 また人の思考を読みやがって。読唇術どころかテレパスなのか?!
「…ウェーブのロングとかブロンドもいいと思いますよ?」
「そりゃどうも」
 やや波打つ豊かな金髪をふわりと背中に払ってジュンは冷ややかに返した。
 こう言っちゃ何ですがね、ロングのストレートは誰だって好きだ。男に質問して回れば人気上位は確実。特に黒髪の場合は決定的だ。嫌いという男は絶対にいないだろう。だが何故か女はパーマをかけてみたり茶色に染めてみたり劣化を図ろうとする。一体誰のためにやっているのだろう。