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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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「そこがいいんじゃないか!」
 突然店中の客が立ち上がった。わ、混んでる。ボックス席まで埋まっている。いつもガラガラなのに。まずいから。客層は言うまでも無く20代から40代までの女に縁の無さそうな奴らばかりだ。
「こんな素晴らしいメイドさんに何けちつけてるんだ君は!」
「ぼくなんか今の台詞録音してPCの起動音にするよ!」
 なんというキモブタの群れ。この街にもいるんだな、こういう連中。アキバに行ってやってくれよ。
 俺は首を振ってカウンターにもたれた。
「ちょっと冷房効きすぎじゃ無い?」
 マスターは頷いた。
「しかしジュンちゃんがあんな暑苦しい格好で頑張ってくれているんだ。我々が我慢するしかないだろう」
 なるほどジュンのメイド服は長袖でロングスカート、その上にエプロンだ。色も黒いし確かに暑そうだ。
 そのジュンとにこやかに談笑したり写真取ったりしている奴らはTシャツから出した二の腕いっぱいに鳥肌を立てている。根性はあるようだ。
「ジュン一人のおかげで繁盛しているじゃないか」
 俺はこの店で出る一番おいしいメニュー「水」を頼んでから嫌味ったらしく言ってやった。
 しかしマスターは表情を曇らせた。
「そうでもない。客は多いけど長居されるから儲からない」
 その上バイト雇ってるから赤字だな。バイトくびにすればいいじゃねーか。
「アイデアを提供してやるからアイスコーヒーおごれ」
「アイデアしだいだな」
 俺は水を一口飲んでからアイデアを披露した。
「ジュンのいる間は1ドリンク30分制にしろ。それと写真も一枚撮るごとに500円。ついでにコーヒーのオプションでラテアートをジュンに書かせろ。これも500円だ」
 マスターは胡散臭い口ひげをいじりながら首をひねった。
「そんなに払うかね」
「払う」
 マスターの表情がスナイパーのそれに変わった。客たちを見つめ静かに頷く。
「払うね」
「それとこの冷房対策だが……」
 俺はもう一度アイスコーヒーを要求した。マスターは素直に従った。
「ジュンの服を半袖、もしくはノースリーブにしろ。スカートもミニだ。ただし全体は変えずにエプロンメイドのままだ」
 マスターは神の啓示を受けたように言葉を無くした。
 代りに近くにいた客が叫んだ。
「それだよ! なんだ君わかってるじゃないか!」
…… ありがとよ。
「風見君、こうして文化は進化していくんだね!」
 マスターは感動に声を震わせた。
 さて…… とっとと退散するか。
 コーヒーを急いで飲み干した後、カウンターを立つとメイドさんがまた俺を捕まえた。
「何よ、もう帰る気? 何しに来たのよ」
 おめーが呼んだんだろーが! 
「ちょっとは店に貢献していきなさいよ」
 お前の知らないうちにすげー貢献したんだよ俺は。
「私バイト11時までだし、それまで付き合いなさいよ」
 どうしてこの可愛い顔は俺を睨むばかりなのだろうか。
 俺忙しいんだけど…… しかしこのブタの群れの中にジュンを置いていくわけにもいかんか。
 ラーメン屋の情報が集まるまでここで待機するか……。
 はぁぁぁ。
 この後マスターから「1ドリンク30分だよ」と請求されたが黙殺した。
 
 ジュンのバイト時間が過ぎ俺はやっと店から出られた。
 この間にラーメン屋から追加データが来た。瞳と行動していたという少年Aについてだ。
 名はリック・ディモンド。
 市内出身のラテン系。13歳、松森中2年。写真もついていた。赤毛の天然パーマ。身長は160ちょい、体重50キロそこそこ。どう見てもスポーツマンタイプには見えない。スナップ写真から見ると明るい表情ではない。インドア派の大人しそうな子だ。住所もわかっている。ああ、うちからそんなに遠くない。こいつも行方不明で警察が捜している。こいつにも会わなきゃいかんかもな。
 本題に話を戻して、黒沢さんが何故消えたかだ。
 妹、瞳の失踪と無関係ではあるまい。その件については鍵さんにも連絡して瞳の交友関係や行きそうな場所もわかる範囲で聞き込んである。鍵さんは黒沢兄弟の保護者同然だが何分にも忙しいし中学生の女の子の私生活までは把握していなかった。しかし人物像なんかは聞くことが出来た。瞳は真面目で正義感の強い娘だったらしい。兄妹だ、似てやがる。
 しかし黒沢さんが妹が失踪したため探している。それだけで会社を辞めるだろうか。
 どうも腑に落ちない。普通の人間なら十分な理由になるが…… あの忠誠心と責任感の塊の男がそんな個人的な理由で鍵さんの下を離れるだろうか。
 蒸し暑い駅前ロータリーで俺は頭をひねった。陽炎の向こうでは炎天下の中、駅前開発の工事が進んでいた。暑いのにご苦労さん。
 俺は一つ可能性を思いついてラーメン屋に電話を入れた。
「おまたせー」
 用事を済ませたところでジュンがさっぱりした顔で出てきた。
 先ほどまでの黒メイド服と打って変わって水色のタンクトップに白いミニスカート、足はナイキのスポーツサンダルという涼しげなスタイルだ。
 ジュンは背が低い上、丸顔で童顔なため一見小学生に見えたりする。まぁ数ヶ月前まではそうだったんだけど。が、薄着になるとアングロサクソンらしい発育のよさを見せ付けられる。すらりと長い手足も、細く華奢な体も女性らしい曲線を整えつつある。店内の豚さんたちは知っているのだろうか。知らなくても感じてはいるのだろう。いやらしさではなくふわりとしたセクシーさを漂わせる娘。それがジュンだ。
「お前シャワー浴びたの? 中で」
 俺の不満げな声にも全く悪びれずこいつは頷いた。
「うん、汗かいちゃったし」
 あいかわらず人を待たせてマイペースなヤツだ。
「危険を感じなかったか」
「鍵ならかかるよ?」
 隠しカメラの可能性は考慮しないんだろうか。マスターにまた一つ提案事項ができたな。
 悪知恵を働かせながら足を北に向ける。ジュンもパタパタとついてきた。
「どこ行くの? 私お昼まだ」
 狭い街だ。商店街は駅横から伸びるやつだけ。この先にはDクマこそあるものの店はすぐ途絶える。
「なんで店でまかない食べてこないんだよ。俺は急いでるんだ」
 ま、俺でもこの店のまかないは食べないな。まずいから。いやまて、こいつ味覚おんちだから平気じゃないのか?
 ジュンは黙ってこっちを睨んだ。却って不気味。仕方ないので次善の策を提案する。
「通りがけにみこしやがある。たこ焼きか、たい焼きを買え」
 みこしやの名は偉大だ。とたんジュンは機嫌を直した。
「おごりよね?」
 みこしやはDクマの1階東にある持ち帰り専門のフードスタンドだ。Dクマの帰りにはここに立ち寄りたこ焼やたい焼きを買っていくのがこの街の定番だ。ジュンも相当気に入ったらしい。確かにここのたこ焼きはうまい。たい焼きもうまい。
それはともかくなんで俺が奢らなきゃならんのだろうか。