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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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「風見君、こうして文化は進化していくんだね!」
 マスターは感動に声を震わせた。
 さて…とっとと退散するか。
 コーヒーを急いで飲み干した後、カウンターを立つとメイドさんがまた俺を捕まえた。
「何よ、もう帰る気? 何しに来たのよ」
 おめーが呼んだんだろーが! 
「ちょっとは店に貢献していきなさいよ」
 お前の知らないうちにすげー貢献したんだよ俺は。
「私バイト1時までだし昼ごはんまだでしょ、それまで付き合いなさいよ」
 どうしてこの可愛い顔は俺を睨むばかりなのだろうか。
 俺忙しいんだけど…。しかしこのブタの群れの中にジュンを置いていくわけにもいかんか。
 ラーメン屋の情報が集まるまでここで待機するか…。
 はぁぁぁ。
 
 ジュンのバイト時間が過ぎ俺はやっと店から出られた。
 この間にラーメン屋から追加データが来た。瞳と行動していたという少年Aについてだ。
 名はリック・ディモンド。
 市内出身のラテン系。14歳、松森中2年。写真もついていた。赤毛の天然パーマ。身長は160ちょい、体重50キロそこそこ。どう見てもスポーツマンタイプには見えない。スナップ写真から見ると明るい表情ではない。インドア派の大人しそうな子だ。住所もわかっている。ああ、うちからそんなに遠くない。こいつも行方不明で警察が捜している。こいつにも会わなきゃいかんかもな。
 本題に話を戻して、黒沢さんが何故消えたかだ。
 妹、瞳の失踪と無関係ではあるまい。その件については鍵さんにも連絡して瞳の交友関係や行きそうな場所もわかる範囲で聞き込んである。鍵さんは黒沢兄弟の保護者同然だが何分にも忙しいし中学生の女の子の私生活までは把握していなかった。しかし人物像なんかは聞くことが出来た。瞳は真面目で正義感の強い娘だったらしい。兄妹だ、似てやがる。
 しかし黒沢さんが妹が失踪したため探している。それだけで会社を辞めるだろうか。
 どうも腑に落ちない。普通の人間なら十分な理由になるが…。あの忠誠心と責任感の塊のような男がそんな個人的な理由で鍵さんの下を離れるだろうか。
 蒸し暑い駅前ロータリーで俺は頭をひねった。陽炎の向こうでは炎天下の中、駅前開発の工事が進んでいた。暑いのにご苦労さん。
 俺は一つ可能性を思いついてラーメン屋に電話を入れた。
「おまたせー」
 用事を済ませたところでジュンがさっぱりした顔で出てきた。
 先ほどまでの黒メイド服と打って変わって水色のタンクトップに白いミニスカート、足はナイキのスポーツサンダルという涼しげなスタイルだ。
 ジュンは背が低い上、丸顔で童顔なため一見小学生に見えたりする。まぁ数ヶ月前まではそうだったんだけど。が、薄着になるとアングロサクソンらしい発育のよさを見せ付けられる。すらりと長い手足も細く華奢な体も女性らしい曲線を整えつつある。店内の豚さんたちは知っているのだろうか。知らなくても感じてはいるのだろう。いやらしさではなくふわりとしたセクシーさを漂わせる娘。それがジュンだ。
「お前シャワー浴びたの? 中で」
 俺の不満げな声にも全く悪びれずこいつは頷いた。
「うん、汗かいちゃったし」
 あいかわらず人を待たせてマイペースなヤツだ。
「危険を感じなかったか」
「鍵ならかかるよ?」
 隠しカメラの可能性は考慮しないんだろうか。マスターにまた一つ提案事項ができたな。
 悪知恵を働かせながら足を北に向ける。ジュンもパタパタとついてきた。
「どこ行くの? 私お昼まだ」
 狭い街だ。商店街は駅横から伸びるやつだけ。この先にはDクマこそあるものの店はすぐ途絶える。
「なんで店でまかない食べてこないんだよ。俺は急いでるんだ」
 ま、俺でもこの店のまかないは食べないな。まずいから。いやまて、こいつ味覚おんちだから平気じゃないのか?
 ジュンは黙ってこっちを睨んだ。却って不気味。仕方ないので次善の策を提案する。
「通りがけにみこしやがある。たこ焼きか、たい焼きを買え」
 みこしやの名は偉大だ。とたんジュンは機嫌を直した。
「おごりよね?」
 みこしやはDクマの1階東にある持ち帰り専門のフードスタンドだ。Dクマの帰りにはここに立ち寄りたこ焼やたい焼きを買っていくのがこの街の定番だ。ジュンも相当気に入ったらしい。確かにここのたこ焼きはうまい。たい焼きもうまい。
それはともかくなんで俺が奢らなきゃならんのだろうか。
 ジュンはたこ焼1人前とたい焼きを2枚購入。たい焼き1枚は俺にくれた。たこ焼きは全部自分が食べる気らしい。すぐ向かいに鍵エンタープライズ経営のフードコートがあるので通常ならそこのベンチで食べていくのだが、仕事中にんなことやってたら鍵さんになんて思われるかわからん。俺は歩きながら食えと命じDクマ前を真東に移動し始めた。この先の住宅街に黒沢さんのマンションがある。たこ焼を平らげて落ち着いたのかジュンが柔らかい声で呼びかけてきた。
「ねぇねぇ」
 振り返ると天使の笑顔があった。
「待っててくれてありがとね、さすがにあれだけの男の人たちの中に一人だとしんどくて」
 三郎ならこんな時なんと返事するんだろうか。
 俺は一瞬後に「ああ」と答えて歩き出すしか出来なかった。
 しばらく前進し線路に当たる前、割と有名なこじゃれたビアレストラン「モチキ」辺りに黒沢さんのマンションがあった。もちろん鍵エンタープライズの所有だ。何の変哲も無い4階建ての古びたマンションだ。賃貸じゃ無さそうだ社宅扱いなのかな。
 3階の隅の部屋のようだ。合鍵は借りてきている。いくら社長の許可ありとはいえ勝手に人の家に入っていいのか。道義的責任を感じるが仕事だ、まあいいだろう。
 鍵を開けてエレベーターホールへ。エレベーターに乗り3階に向かう。この間ジュンは俺が今どんな仕事をしているのか全く質問してこなかった。その辺は賢い女だ。バイトに友達誘おうかなーなどとぼやいている。嫌ならやめちゃえばと言ったところ「でも喜んでもらえてるしー」と返してきた。ふむ…ただのわがままお嬢様ではないのだな。
 エレベーターから廊下に出ると奥の方の部屋の前に女の子が立っていた。瞳では無い。あれは…。
「森野?」
 呼びかけると驚いて振り返った。違った。似てるが別人だ。少し大人びた顔と表情。怯えているようにも見えた。
「失礼、人違いです」
 俺が謝ると少女は会釈して足早に俺達の横をすり抜けてエレベーターに消えていった。
「驚かせちゃったか」
 ジュンが小首をかしげた。
「森野さんって新聞部の?」
 ふんふんと頷いて確かに似てるね、と呟いた。そういえばこいつも面識あったな。
「ああ、今朝も店に押しかけてきてな…」
 あ。
エレベーターに駆け寄ったが遅かった。もう1階まで降りている。廊下から外を見下ろすとさっきの少女が駅の方に歩いていく。
「おーい。君、森野めぐみのお姉さん?」
 少女は見上げたが無視してそのまま走り去っていった。
「女の子にいきなり大声で呼びかけたら逃げるでしょ」
 ジュンは呆れ顔だった。確かに…。三郎ならそんなミスはしないだろう。
 俺は森野に電話してみた。番号はこの間の事件でゲット済み。
「今お前のお姉さんらしき人に会ったぞ」
「どこですか?!」