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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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 おじさんらしい責任感ある言葉だ。
「それでいい。頼む」
 コーラを一本もらってから店を出ると電話が鳴った。またジュンだ。今度は出る。
「なんですぐ出ないのよ!」
 いきなり怒鳴りやがった。
 こういう電話の仕方をするヤツは意外と多い。携帯電話といえど出られない時は出られない。かける時は相手の都合も考えてかけよう。小学校でそう習っているはずなのだが。
「最近女の子狙った犯罪増えてるんだから。なんかあったらどうすんのよ」
 お前の安否を何故俺が保障しなきゃならんのだ。説教をかましてやろうとしたが、なんだかんだとまくし立てるのでめんどくさくなった。
「だー、忙しいんだ。何の用だ」
「さっき早安の前通ったでしょ」
 お前までストーカーなのか。
「早安でバイトしてるのよ、夏休みだから」
 なるほどここにも等しく夏休みが訪れている。中学生のバイトを禁止しているバカな学校は多いがピース学園はキリスト教がベースで社会奉仕はメインテーマと言ってもいい物。バイトはむしろ推奨されているらしい。うちも雇おうかな、可愛い女の子限定で。
「で、なんだ暇なのか」
「バイト中に暇も無いでしょ。ちょっと顔出して店に貢献しなさいよ」
 そういえばこいつピース学園中等部だ。ジュンの話を聞くのも悪くないか。わかったよと返答して俺はまた北口に足を向けた。ち、また入場券か。入場券の定期は無いんだろうか。
 移動中警察の知り合いに電話する。警察署長とも結構マブだがその秘書の方が通りはいいだろう。
「アリス、黒沢瞳って子の捜索願出てないか?」
 暇と巨乳で知られる署長秘書はすぐにでて即答した。
「でてるわよ、見つけたの?」
「いや探すから捜査の進行状況と情報をくれ」
「そんな情報教えられるわけ無いでしょ」
 声が少し慌てた感じだった。解りやすい奴め。未成年の行方不明なんて隠し事することじゃ無い。大いに情報を公開して探してもらうのが普通だ。それを鍵さんすら知らなかったというと警察は内密に捜しているということになる。内密にするという事は警察内部の不祥事か未成年犯罪という事になるだろう。だから俺は「捜査」という単語を使った。
 さてアリスの口を割らせるなんて簡単だ。
「黒沢瞳のお兄さんは27歳でY国大出身。鍵エンタープライズの社長側近にして武道の達人。めっぽう渋くていい男だ。助けてあげたいと思わないか」
「独身?」
 声の真剣度が瞬時に変わった。
「独身」
「じゃあ仕方ないわね」
 その通りだとも。
「単なる家出じゃ無い感じね。犯罪に巻き込まれている、あるいは関わっているかも。一緒に行動しているところを目撃された少年も行方不明ね」
「名前は?」
「そこまでは職業倫理上ちょっと」
 あんたに一番遠い言葉だがな。
「そいつに補導暦は?」
「ないわ。捜索願も出てる」
 なんらかの少年犯罪が発生して少年Aが重要参考人。黒沢瞳はその被害者あるいは協力者という事か。
「成功の暁にはお兄さんと会食を」
 トーンが下がっている。すっかり女スパイ気取りだ。
「約束しよう。職業倫理にかけて」
 この情報をラーメン屋と会社に流し俺は「喫茶・早い! 安い! だけ」に到着した。
 駅から歩いて1分という地の利とその名の通り早くて安いを武器に今まで生き残っている老舗喫茶店だ。店の規模は5人がけのカウンターとボックス席が2組。広くは無い。マスター一人できりもりしていたが今はジュンがバイトしているはずだ。
 チリンチリンと呼び鈴が鳴る古風なドアを開けると冷たすぎる冷房の風と共に
「おかえいなさいませー!」
 とハートマークつきの声で黒服のメイドさんが迎えてくれた。
「ごめん店間違えた」
 180度ターンを決める俺。消防団員なので回れ右は得意だ。1で右足を引き両かかとを支点に2,3と回る。その俺の首根っこをメイドさんはむんずと掴んだ。
「間違えてないよ」
 じゃあ間違っているのは店の方だ。
 身長150に満たない金髪緑眼の中学生バイトは黒服白エプロンという正統派メイドスタイルで俺を出迎えていた。
「何やってんだよ、お前?!」
 俺の真っ当な質問にジュンはまあるい瞳で睨みつけてきやがった。
「ウエイトレスのバイトよ、見れば解るでしょ」
 いや…よくわからないぞ。
「マスター、何事だこれは?!」
 カウンターの中で上機嫌なマスターに呼びかける。マスター・ジャック・マクソン氏は60近いおじさんなのだが…。
「新しいバイトさんを雇ったんだよ。それは昔からあるうちの制服。このところバイトを雇っていなかったんで使われていなかっただけさ」
 嘘をつけ。
「メイドさんがおかえりなさいませーと迎えてくれるのがこの店のスタイルだというのか」
 マスターはその通りと胸を張った。
「この店の伝統的スタイルだ」
「その伝統的挨拶、こいつ今かみやがったぞ」
「そこがいいんじゃないか!」
 店中の客が立ち上がった。わ、混んでる。ボックス席まで埋まっている。いつもガラガラなのに。まずいから。客層は言うまでも無く20代から40代までの女に縁の無さそうな奴らばかりだ。
「こんな素晴らしいメイドさんに何けちつけてるんだ君は!」
「ぼくなんか今の台詞録音してPCの起動音にするよ!」
 なんというキモブタの群れ。この街にもいるんだな、こういう連中。アキバに行ってやってくれよ。
 俺は首を振ってカウンターにもたれた。
「ちょっと冷房効きすぎじゃ無い?」
 マスターは頷いた。
「しかしジュンちゃんがあんな暑苦しい格好で頑張ってくれているんだ。我々が我慢するしかないだろう」
 なるほどジュンのメイド服は長袖でロングスカート、その上にエプロンだ。色も黒いし確かに暑そうだ。
 そのジュンとにこやかに談笑したり写真取ったりしている奴らはTシャツから出した二の腕いっぱいに鳥肌を立てている。根性はあるようだ。
「ジュン一人のおかげで繁盛しているじゃないか」
 俺はこの店で出る一番おいしいメニュー「水」を頼んでから嫌味ったらしく言ってやった。
 しかしマスターは表情を曇らせた。
「そうでもない。客は多いけど長居されるから儲からない」
 その上バイト雇ってるから赤字だな。バイトくびにすればいいじゃねーか。
「アイデアを提供してやるからアイスコーヒーおごれ」
「アイデアしだいだな」
 俺は水をいっぱい飲んでからアイデアを披露した。
「ジュンのいる間は1ドリンク30分制にしろ。それと写真も一枚撮るごとに500円。ついでにコーヒーのオプションでラテアートをジュンに書かせろ。これも500円だ」
 マスターは胡散臭い口ひげをいじりながら首をひねった。
「そんなに払うかね」
「払う」
 マスターは客たちをスナイパーの表情で見つめてから頷いた。
「払うね」
「それとこの冷房対策だが…」
 俺はもう一度アイスコーヒーを要求した。マスターは素直に従った。
「ジュンの服を半袖、もしくはノースリーブにしろ。スカートもミニだ。ただし全体は変えずにエプロンメイドのままだ」
 マスターは神の啓示を受けたように言葉を無くした。
 代りに近くにいた客が叫んだ。
「それだよ! なんだ君わかってるじゃないか!」
…ありがとよ。