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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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 その男が突然退職届とは解せない。疑問を持ちつつ俺は封をあけた。
 中身はシンプル。
 一身上の都合で退職いたします。数々のご厚情に報いる事もできずお詫びのしようもありません。
 それだけだった。
「連絡は当然つかないんですね?」
 俺の質問に鍵さんは目を伏せて頷いた。
「電話は繋がらないし自宅も空だった」
「前日まで変わった様子は?」
 これには首を振った。
「全く気がつかなかった。9時に自宅に来るとまで向こうの方から言ってきたくらいだ」
 なるほど…… 鍵さんが不安げなのも俺が何か足りないと思ったのもこれが原因か。黒澤さんは常に影のように鍵さんに付き添っていた。
「警察には?」
「話しちゃいないさ。これは事件じゃないからね」
 確かに大の大人が突然会社辞めたくらいで警察は動かないだろう。しかし辞めたのが黒沢さんとなると俺や鍵さんには大事件だ。
「この字は間違いなく黒沢さんの物ですか」
 退職届を返しながらの質問に鍵さんは頷いた。
「私が見る限りは。習字は得意だった」
 鍵さんはここで咳払いして続けた。
「依頼は黒沢を見つけてきちんと事情を話させること。厄介ごとになっているなら手を貸してやってほしい」
 鍵さんは苦しげだった。ただの側近を失った経営者には見えない。まるで……
 いや俺の感想などどうでもいい。俺は話を続けた。
「朝置いてあったと言う事は、昨日の夜から朝にかけてここに黒沢さんが来たということですね? 確認は取れましたか」
 鍵さんはしっかりと頷いた。
「朝7時くらいに出社して私の執務室に入ったらしい。早朝出社した者が見ている。様子は変わらなかったそうだ」
「まあ、いつも無口で無表情ですからね」
 ふうむ…… そのへんにいる無責任なガキならともかく黒沢さんが突然仕事を投げ出すはずは無い。よほどの厄介が発生したと考えるべきだろう。
 ふと見ると鍵さんは真剣に俺の表情を見つめていた。
 俺の返答を待っているのだ。
 返事など決まっている。
「黒沢さんの情報を可能な限りください。当たってみます」
 鍵さんはほっとしたように微笑んだ。
「やってくれるか。データはもう用意してある。よろしく頼む」
 鍵さんは俺の手を両手で握ってくれた。
鍵さんは俺を高く買ってくれている。ちょっと買いかぶりすぎなほどに。
しかしそれにしても少し感情が高ぶりすぎではなかろうか。それほど黒沢さんがいなくなった事が心配なのだろう。
 鍵さんの期待に応えなければなるまい。それに黒沢さんは俺にとっても尊敬できるかっこいい大人なのだ。
 黒沢さんの履歴などのデータを書類とパソコンのデータで受け取ると俺は駆け足で鍵邸を辞し街一番の情報屋へ足を向けた。ここからなら駅を突っ切ればすぐそこだ。歩きながら情報屋と電話でアポを取っているとメールが入った。入金報告、鍵さんからだ。そういえば料金の打ち合わせを忘れた。鍵さんには世話になっている。このくらいただで動いてもバチは当たらないのだが。
 金額を見て驚いた。桁を間違えたんじゃないかと。
 7桁の入金があった。
 いくらなんでも入れすぎだ。返さなきゃならんかと思ったが、もらったものを返すのも失礼なのかな……
 Dクマの前を過ぎ駅前通りを右折して駅へ向かう。駅前ロータリーはすぐそこだ。
 駅前は少し様子が変わっていた。駅の向かって左側、東の方で建設が開始されていた。
 市長が再選し様々なプロジェクトが始動している。駅前再開発もその一つだ。
 この街の駅は少々特殊で駅そのものが街を南北に分断してしまっている。
 田舎町の駅のくせに2本の路線が乗り込んでいるせいでホームは4本あり意外と幅がある。入ってくる電車の数もそれなりに増える。だから駅そばの踏み切りは「開かずの踏切」となる。しかもその踏切が駅から数百m離れているとなると普通の人はよほどの用事が無い限り南北を横断しようとは考えない。北側には市民の心のふるさとDクマがあるから人は集まるが南は当然人が減ってしまう。これは市の経済の損失、ということで駅舎をビル化、ついでに渡り廊下を作る。
 これが駅前再開発のメインプロジェクトだ。
 行きつけの喫茶店「早い! 安い! だけ」の前を通り過ぎ、駅で入場券を購入し駅に入る。これで遠い踏切まで行かずに南口に行けるわけだ。おかげでこの駅は全国有数の入場券販売実績を誇っている。その記録も駅前開発が進むと無くなるわけか。入場券買う出費とわずらわしさは無くなるが何故か寂しい気もする。
 連絡橋を渡り南口から出ると北口より明らかに寂れた南口駅前ロータリーがある。その脇、駅から出てすぐ左側に目的地のラーメン屋がある。
 狭いが有名なラーメン屋「ちゅーりっぷ」だ。
 別に腹が減ったわけではない。この店は副業で情報屋をやっている。しかも街一番と名高い。
 店に向かうと俺は異変に気づいた。
 店の前に巨大な置物がある。よく店先に置いてある狸に似ている。しかしあんな所に置いておいたら通行の邪魔じゃないか。いやそもそも店の前に置いたら中に入れない。なんだってこんなところにあんな物が。
「いらっしゃーい、風見ちゃん」
 置物が動いた。一歩飛びのく。
「そろそろ来る頃だと思って待ってたのよー」
 置物はにんまりと笑った。
 なんだおばちゃんか。
 ちゅーりっぷは老夫婦で経営されている。ご主人のおじさんはいい人で小柄な方なのだが、奥さんの方はごらんの通りご主人の生気を吸い取ったかのごとくデカイ。主に横方向にデカイ。最近さらにグレードアップしたんじゃないか?
 おばちゃんも凄腕の情報屋なのだがよくこの巨体で情報収集できるものだ。目立ってしようがないじゃないか。
「さあ入って入って客なんかいないから」
 おばちゃんは丸太のような腕で俺を店内に押し込んだ。その時携帯がブルンと震えた。俺の携帯はいつもマナーモードだ。画面を確認する。
 なんだジュンか。あとでいいや。通話不能を通知してカウンター席に腰かけた。
「いらっしゃい、今日はなんにする」
 カウンターの向こうから小さなおじさんが微笑んだ。こう見るとごく普通のラーメン屋の店主にしか見えない。しかし裏に回るとこの街のいろんなヤバイことに精通したおっかない人でもある。VIP達の公表されたくない情報をいろいろ握っているので誰も手を出せない。裏社会のバランスなのだ。
「駅から歩いてきたって事は北口で何かあったね? 警察か鍵さんあたりかな」
 おばちゃんがビールの銘柄が書かれたタンブラーで水をくれた。この季節ではありがたい。一気に飲み干す。その横顔をおばちゃんムフフと笑って見つめてきやがった。怖い。このおばちゃん時々俺のストーカーもやるからさらに怖い。そんな心を表には出さず回答する。
「鋭いね、鍵さんとこの黒沢さんに関する情報が欲しい。ただし履歴書レベルは既に入手済みだ」
 カウンターの中で小さな親父さんが頷いた。
「あいよ風見君はゴールド会員だからね、そのくらいは定額料金内だ」
 最近この情報屋は会員制になった。
 ゴールド、シルバー、ブロンズのランクがあって月定額取られる。そのかわりたいていの情報は無料で得られる。