便利屋BIG-GUN3 腹に水銀
「どこから盗んできた! 盗品で仕事するわけにはいかないぞ」
「意外と真面目なんですねぇ。大丈夫、親のですよ」
意外ととは何だ。俺より真面目なやつがこの街にいるか!
「親のを盗んできたのか!」
「親も承知です。とりあえず現金が無いのでそれは質ということで……」
森野の表情は割りと真剣だった。遊びに来たわけでは無さそうだ。
ふむう……
しげしげとライカを見る。ライカはコレクターも多い。買って使いもせず大切にガラスケースの中にしまいこむ連中だ。まぁライカは美術工芸品という見方も出来るのでそれを否定する気は無いが……
しかしこのカメラの主はそうでは無いようだ。角が使い込まれて磨り減っていて金属のメカ特有の味をかもし出している。しかもキチンと整備されていてピカピカだ。森野の親にとってこのカメラは単なる高価な貴重品なだけではない。俺は確信した。
「親御さんはこれを大事にしているだろう」
俺が突然シリアスなしゃべり方をしたので森野も付き合ってしんみり返した。
「ええ、まあ」
「同じカメラ好きとして大切な相棒を取り上げるわけにはいかん。とりあえずこれは返す。話は聞こう」
森野は俺からライカを受け取ると大事に皮ケースにしまった。そして深刻な表情で話し始めた。
「あの…… 大変申し上げにくいのですが……」
「ふむ…… 秘密は守る。話せ」
森野は大きく息をすってから言った。
「話は三郎さんに聞いて欲しいのですが?」
えーい、やっぱり帰れ!
北下三郎、俺の相棒だ。あらゆることを手際よくこなす天才肌の男で相棒としてはこいつ以上に頼りになる奴はいない。反面俺よりちーと甘いマスクで周りには常に女が付きまとう。友人としてはこいつ以上にむかつく奴はいない。先日FMラジオで恋愛相談なんてやったもんだから市内で名が売れて、こいつ目当ての客が後を絶たない。いいかげん対応にうんざりしているところなのだ。
再度森野をつまみ出そうとすると電話が鳴った。固定ではなく俺のスマホだ。耐水対衝撃のタフな奴だ。森野は放置して直ちに受ける。
「風見君か? すまんが今すぐに会いたい。会社にいるかね?」
なんと鍵さんだった。この街の名士中の名士。駅前などに多くの不動産を所有し、それを財源に多くの商取引を行う会社「鍵エンタープライズ」の社長だ。ちょっとした縁で知り合って以来何かと目をかけてもらい世話になっている。鍵さんが用があるというなら会わないわけにはいかない。
「いますが御用なら出向きます。会社ですか?」
「ああそうだ。すまないね」
いつもは自信に満ち溢れ頼もしい人なんだが様子がおかしい。何か不安げで落ち着かないようだ。ただ事ではあるまい。
俺は至急向かう旨を伝え森野に外出を伝える。
「えー、話聞いてくださいよ、おねーちゃんが大変なんです」
こちらも表情にあわて感が出ている。仕方ない。俺はさっきの写真を出し背の高いゲルマン人を指差した。
「この男は俺達の中で一番温和で誠実な男だ。三郎は外出中だがこの男なら話を聞ける。どうだ?」
どうだも何も聞く必要は無かった。森野の瞳は既にハートマークになっている。
「シンクロ率85%越えてますよ!」
「それはよかった。今呼ぶ」
俺のシンクロ率が何%かはあえて聞かずジムをインターホンで呼んだ。
ジェームズ・ロダンは俺より2歳年上の18歳。身長190もある上、見事な逆三角形の肉体を持つ男だ。体だけ見ればアメフトの選手のようであり実際運動神経も抜群だが何故かインドアな仕事を好む。夢は銃の加工や製作をするガンスミスだそうだ。先ほども言ったが性格は温和にして誠実。やや面長な顔には常に優しい笑顔が湛えられている。年齢以上に俺達より大人であり三郎でさえ一目置いている頼りになる男だ。
地下のガレージで車の整備をしていたのだが来客と俺の外出を聞くとすぐに上がってきてくれた。
黒に近いブラウンの髪を持つ青年は森野を見ると一礼してから微笑み名乗った。
「ジェームズ・ロダンです。ジムと呼んでください」
森野は一発で舞い上がった。
はわはわと話し始める。わかりやすい奴だ。
「わわわわたし森野めぐみです。風見センパイとは学校で知り合って……」
どうやら俺の事は眼中から消えたようなので、その隙に俺は愛車プジョー106が待つガレージに下りた。
スマホ、財布そして愛銃ベレッタM84を確認し白いデニムの活動服を羽織る。
準備よし。俺はインディゴブルーに輝く小さなフレンチカーに飛び乗り地下ガレージの坂を駆け上がって外へ出た。
俺の名は風見健。この街のゴタゴタを解決する便利屋BIG-GUNの社長だ。というと偉そうに聞こえるが、まだ16歳のガキで、ただの悪党だ。
さて今日はどんな事件が待っているのやら。
店を出てラギエン通りを南下。松森中学を過ぎると1国にぶつかる。これを右折してしばらく走ると駅前通りの十字路だ。左へ曲がると、どんづきが駅。そのちょっと手前に我らがDクマがある。Dクマとはこの街最大のディスカウント・ストアで市民の憩いの場である。
余談だが少なからぬ市民がDクマをこの国最大のデパートと勘違いしているらしい。困ったものだ。
Dクマの向かいはフードコートになっており、ここに鍵さんが経営する鍵エンタープライズの事務所がある。ちなみに鍵さんの自宅はさらにそのむこう。駅前だというのに和風な豪邸がどんと鎮座している。便利だけど街の発展のために引っ越そうかと時々こぼしている。
会社の駐車場にプジョーを停め中に入る。建物は鉄筋3階建て。会社の規模の割りに質素な建物だ。しっかりした造りだが無駄な装飾品はあまり無かった。玄関にトラでもドンと飾ってありそうだが…… 事務員のおねーさんが応対してくれ応接間に通された。応接間のソファーセットはふかふかではなく食事にも使えそうな実用的なものだった。質実剛健な鍵さんらしいチョイスだ。3分と待たず鍵さんは現れた。瞬間違和感を覚えた。何か足りない。
「よく来てくれた。突然すまなかったね」
堀が深く日に焼けた顔。長身でがっちりとした体を高価そうな和服が包んでいる。
もう孫がいていい年齢のはずだが精悍で若々しい、いつもの鍵さんだ。
だがいつもより目力が弱く感じる。風邪でもひいているのか?
「挨拶は抜きにして本題に入らせてもらおう」
地に根を生やしたような人なのだが、やはり今日は何か落ち着かない様子だ…… 一言で言うと焦り? 普段の鍵さんとは縁遠い言葉だった。
「今朝これが私の机に置いてあった」
白い封筒だった。封筒には毛筆で「退職届」とあった。達筆だ。
受け取って差出人を見ると驚いた。
黒沢 玲司。鍵さんの側近で凄腕のボディガードだ。
年齢は30前後だったか、ストイックを絵に描いたような男だ。仕事は実直、不言実行の人だ。背が高くオールバックの下に輝く鋭い瞳はヤクザでも震え上がらせる。格闘技の達人で鍵さんに危害を加えようとする者には容赦はしない。
そして何と言っても素晴らしいのは忠誠心だ。
まるで主に従う武士。単に雇われているだけでは決して無い忠義をもって鍵さんを警護していた。
作品名:便利屋BIG-GUN3 腹に水銀 作家名:ろーたす・るとす