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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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 何の後ろ盾もない暗殺屋から出世を続け、この国で指折りの組織のトップに立った伝説の殺し屋、通称BIG-K。
 それが俺の親父だ。
 俺はその親父から逃げ出してこの街に転がり込み仲間たちと便利屋を始めた。
 そう逃げ出しただけだ。そんな俺がこの人に褒められる資格があるか?
「すまない、本題に入ろう」
 東条さんは俺をじっと見つめた。
「リック・ディモンド君、警察に捕まった上殺し屋に殺されたそうだね。ルガーP 08、BIG-Kと同じ銃で」
 親父もここ一番の「殺し」ではルガーを使ったそうだ。
 俺と違って震えたりはしなかっただろうが。
「遺憾だがうちの組員もあの事件に絡んだ。実際に中学生のお嬢さんを二人も殺している。明日にでも警察がやってくるだろう。私も責任者として責任を取らなければならない。だから急いで今日来てしまったんだ」
 東条さんはじっと俺を見た。懇願しているようにも見えた。
「我々は大人として裁かれなければならない。リック君も裁かれた。だが…… 聞きたいんだ」
 少し言葉を詰まらせた。
「ロイも、息子も裁かれるのだろうか」
 助けてやって欲しい。真剣な、息子を家族をかばう瞳だった。子供を家族を思う気持ちはヤクザも一緒か。
「何故俺に聞くのかはわかりませんが」
 俺は言葉を選んだ。
「彼は裁かれないんじゃないでしょうか」
 東条さんの顔は輝くというよりは驚きだった。
「何故かね?」
「彼が事件とはほぼ無関係だからです。彼は恐らくリックと大道組の連絡役程度だったんだと思います」
 二人は俺の説明を待った。
「俺が彼を初めて見た時、失礼ながら見た目はヤクザの息子っぽいなと思いました。しかし俺を見てリックは逃げ出しましたがロイは何が起きているかわからないようでその場で動かないままでした。驚いて行動もできないようだったし大それた事件を起こせる少年には見えませんでした。念のため彼らの学校の生徒にも裏を取りました。ヤクザのせがれのロイがリックに絡んでいると思ってましたが逆でした。何故か羽振りのいいリックが陰でロイを金で動かしている。そんな関係だったんです。大丈夫息子さんは殺されたりはしませんよ、多分ね」
 東条さんは涙を流した。
「そうか、そうですか。ありがとう」
 二人は俺に何度も礼を言いその場を去ろうとした。
 俺は藤崎さんを呼び止めた。
「あんたも今回の件には無関係なんだろ?」
 驚いて「なんでそう思う?」と彼は聞き返してきた。
「やくざだけど女の子を殺すようには見えない」
 東条さんが振り返った。
「そうです。こいつも本当はヤクザなんかやりたくないんです。しかしヤクザにでもならなきゃ生きていけない若い奴らの面倒見るために残ってくれてるんですよ」
「組長」
 藤崎さんも涙を流した。
 ヤクザが人情ドラマか。どこまで本当かはわからない。
「なら舎弟が素人や親分に迷惑かけないように見張っててくれよ。俺は…… 二度は甘い顔はしないぜ」
 二人は深くうなずいて去っていった。
 鍵さんと黒沢さんにどこか似ている。
 あの二人も家族か。
 
「遅くなりました!」
 タオルをハチマキ代わりに巻きつつ俺は焼きそばの屋台に戻った。先輩方は屋台の前に長々と続く行列をさばくため、玉の汗を流しながら仕事に励んでいた。
 一番若い俺が働かなきゃならん。
 しかしウィリアム住職が俺の肩を叩いた。
「君は今日はもういいよ」
 嫌味ではなく満面の笑顔だった。住職は視線を右の方に移した。それを追うと光が立っていた。
 ジュンだった。
 いつものミニスカートスタイルではなく場に合わせて浴衣姿だった。
 涼しげな水色の浴衣には色鮮やかな金魚が何匹も描かれていた。
 長い髪はアップされ普段とは全く異なる魅力を放っていた。
 その姿を目撃した時の印象は今までに見たこともない姿であったにも拘らず初めて会った時と同じだった。
 光り輝いていた。
 そこだけスポットライトを受けているようで俺の時間は一瞬止まっていた。
 ジュンは俺に気づくと何故か冷めた表情で軽く手を振ってきた。
「かわいいねぇ」
 住職の声に現実に引き戻された。
「うらやましいよ、僕が付き合いたいくらい」
「歳が違いますよ?」
 ジュンは13歳で、この人は確か30過ぎのはず。
「いやあ僕はもっと若くても全然オーケーだよ?」
 どこまでジョークなのか判断がつかずちょっと引いていると分団長が声をかけてくれた。
 分団長は、さっきから夜とはいえまだまだ暑いというのに高火力のガスバーナーで熱せられた鉄板に向かい慣れた手つきで黙々と焼きそばを焼き続けていた。忙しさMAXの分団長は俺の方を見ず焼きそばの焼き加減をチェックしながら言った。
「風見君うちの分団のモットーは第一に家庭、第二に仕事、消防はその次だ」
 これは入団した時からよく聞かされている。これのおかげで俺は仕事をしながら消防団にも所属できているのだ。
「だから独身者が彼女を大事にするのは最優先事項だ。行け」
 それでも俺が躊躇していると他の先輩方も早く行けと笑って言ってくれた。
 俺は先輩方に頭を下げるとタオルを外してジュンの元に駆け寄った。
 
 祭の喧騒を離れ俺達はお寺の裏山にある小さなお宮に登った。
 ろくに街灯も無いが月はほぼ満月だったのでさほど暗くはなかった。
 お宮の裏は墓地なので、こんな時にここに来る奴はいまい。
 合流してから上に登って来るまでジュンは無表情で何もしゃべらなかった。よそよそしくて何か気まずい。
「リック君の事知ってるでしょ?」
 ジュンが突然切り出した。俺は動揺を隠しながら「ああ」とだけ答えた。
「事件の事、話して」
 表情豊かなジュンしか知らないので俺は平常心を失くしかけていた。
「事件の真相はこうだ。駅前の開発が始まって鍵エンタープライズが当然大きく関わっていた。担当は黒沢さんだ。しかし土地の買収がうまく行かなかった。それほど大きい土地じゃなかったが頑として手放さない人がいた。リックのお父さん、アーノルド氏だ」
 ジュンはじっとこっちを見つめ聞いていた。俺は視線をそらして続ける。
「黒沢さんは一大プロジェクトを何としても進めたかった。それでヤクザを雇って少々強引に解決しようとしてしまった」
「黒沢さんが殺させちゃったの?」
「違う、そんなことをすれば鍵さんに迷惑がかかる。ちょっと脅しを入れるつもりだったんだろう。しかし結果的に鍵さんと会社に多大な迷惑をかけてしまった。それが黒沢さんの退職届の理由だろう」
 この辺は俺の予想も入っている。だが多分合っているだろう。
「だが目先の金に目が眩んだリックが動いてロイを通じて大道組を動かした。リックは甘やかされていたから多少の小金は持っていたし土地が売れたらその金を回すとか言ってヤクザの若造を買収したんだろう。アーノルドさんを殺害して土地の買収を進めさせた。どういう経緯かはわからないがそれを最近再会した瞳さんに気づかれた。リックたちは瞳さんの口も封じた」
 話を終えてジュンに視線を戻した。
 ジュンの表情は悲しげだった。
 俺はリックの悪事と瞳さんの悲劇を悲しんだと思った。
 しかし。
「それだけ?」
 とジュンは言った。