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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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 ジュンの声は冷たい。
「撃たれて何分も苦しんでのたうち回って死んだそうよ? わざと苦しませるような弾だったらしいわ」
「なんでそんな事まで知ってる?」
「アリスさんが教えてくれたわ。駆け付けたお姉さんも半狂乱だったって」
 しばし沈黙が流れた。
「私を守ってくれたんじゃないの?」
 俺は押し黙った。やめろ、それ以上話すな。
「それは…… 嬉しいんだけど…… 人にはやっていい事と悪い事があるのよ?」
 俺を悲しげに見つめる緑の瞳。
 俺はなお沈黙を保った。
 俺に…… 今語るべきことがあるだろうか。
 しばしの後、ジュンは小さくため息をついて言った。
「ケンちゃんは…… 誰にも心を開かないんだね」
 俺の血の気が引いていた。
 どんなヤクザだろうが殺し屋だろうが対峙して怖がったことなど一度もない。
 だがこの時俺は明らかにおびえていた。
 ジュンはやはり全て気づいている。
 俺の正体を。俺が許されざる悪党だという事を。
 彼女の次の言葉は決まっている。
 別れだ。
 以前にもこんな会話をした。あの時は俺がジュンを遠ざけた。俺がジュンに別れを告げた。
 だがそれに気づかぬふりをして彼女は戻ってきてくれた。
 そんな彼女が別れを告げようとしている。
 はっきりしない俺に。
 悪党な俺に。
 自分のために残酷な殺しをやった俺に。
 愛想を尽かして別れを告げようとしている。
 ジュンは立ち去らずじっと俺を見ていた。
 俺の言葉を待っていてくれている。
 最後のチャンスをくれているのだ。
 何を言えばいい?
 彼女のためを思えばこのまま別れるのが正解だ。
 俺は悪党で俺の手は真っ黒に汚れている。
 彼女の父親すら手にかけている。
 家族を奪ったのだ。
 どうして言える?
 行くな、なんて。
 俺は天を仰いだ。夏の空に大きな月が眩く輝いていた。
 月。
「ジュン」
 俺は弱弱しく呟いていた。すっとジュンに背を向ける。
 そして無意識に告げていた。
「月が綺麗ですね」
 空気が止まったような気がした。
 ジュンが近寄ってきて俺の顔を覗き込んできた。
 緑の大きな瞳が俺の心の中まで見通すように見つめてきていた。
 俺はこの時のジュンの表情を一生忘れないだろう。
 夏の風は俺達を吹き抜け、月はただ蒼く輝くばかりだった。

便利屋BIG-GUN3 腹に水銀 完