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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN3 腹に水銀

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 黒沢さんは俺の下でなお「殺す」と叫んでいた。そこへ。
「もういいんだよ玲司」
 その声に黒沢さんははっと冷静さを取り戻した。
「社長?!」
 現れた和服の男性鍵さんは悲しげな顔で俺達に歩み寄ると俺に「放してやってくれ」と言った。
 俺が手を緩めると黒沢さんはゆっくりと立ち上がると大粒の涙を流し鍵さんに頭を下げた。鍵さんはその肩を優しくたたいた。
 近くにいたパトカーがサイレンを鳴らしながらやってきた。
 さあ乗るんだ、とリックがパトカーに押し込まれそうになると後ろから金切り声を上げてアリアが飛び出してきた。
「やめて! リックを放して!!」
 警官にしがみつくが勿論振り払われてしまう。すると彼女は俺を見た。
「風見さん、リックを助けて」
 泣きながら弟を本気で守りたい姉の顔だった。
 しかし俺の心は動かなかった。
「あなたも知っていたんですよね、アリアさん」
 アリアの顔も固まった。
「事情を知っていて弟に協力していた。市民の村で俺達はヤクザに襲われた。あそこに俺達がいるのを知っていたのは俺が連絡した三郎とリックが連絡したあなただけだ。リックから連絡を受けて弟にちょっかいを出す俺を排除しようとしましたね?」
 アリアはしばし黙って言葉を選んでいたが俺をにらみ言った。
「そうよ、私は姉よ。何があっても弟を守るのよ!」
「あなたのお父さんを殺したんですよ?」
「それがどうしたの? 弟は若いの、未来があるのよ!
私は弟の未来を守りたかった。あなたたちはこんな事をして、弟をはめて捕まえて正義の味方気取りで気分がいいでしょうね!  でもそのせいで弟の将来は台無しよ!  あなたたちはひとでなしだわ!!」
「それは違うわ」
 違う声が割り込んで一同は振り返った。
 ジュンだった。
「お姉さんなら、本当に弟さんの将来を心配していたなら、ダメなことはダメ、やっちゃいけないことはいけないって教えてあげなければならなかったんじゃないですか?  あなたのやったことは愛情じゃないと思います」
 皆の心に響く言葉だったがアリアには届かなかった。
「あんたみたいな小娘に何がわかるの? 私は母親代わりにリックを育ててきたの母親は何があってもかばって守るものなのよ!」
 鬼の形相のアリアにジュンも気押された。
 そこにまた笑い声がした。
「大丈夫だよ姉さん。言ったろ、誰も僕を裁けないんだ」
 リックは主に俺に向けて言った。
「うまく僕をだましたつもりだろうけど無駄だよ。僕はね、まだ13歳なんだ。罪に問えないんだよ」
 この国の法律では確かに14歳未満の人間は法で裁くことはできない。保護観察でおしまいだ。
「僕はすぐに解放されるんだ。そうしたら」
 リックはジュンを見た。
「今度はお前をかわいがってやるさ」
 リックはまた高笑いした。警官がその体をパトカーに押し込んだ。アリアも連れていかれるようだ。
 不意に柔らかくて暖かいものが俺の左腕にからみついた。
 ジュンが俺にしがみついていた。大きな瞳が開かれ白い肌は血の気が引きさらに青白くなっていた。
 おびえている。
 気が強いといってもこいつはまだ13歳の少女だ。
 暴力的な言葉に恐怖して当然だった。
 俺の心の中の何かが切れるのを感じた。
「くそっ」
 懐から銃を抜きリックを乗せたパトカーに走り出そうとする。
 俺ではなく黒沢さんが。
 それをまた羽交い絞めにして引き止める。俺と鍵さんで。
「放してください!  法で裁けないなら俺が裁く!  刺し違えても、あいつを許さない!」
 泣き叫ぶ黒沢さんに鍵さんも訴えた、涙を流しながら。
「やめてくれ、頼む」
 その顔に黒沢さんもたじろいだ。
「私は今家族を一人失くしてしまった。もう一人失うのはごめんだ。こらえてくれ玲司」
「お、親父」
 自分の事を家族と呼んでくれた人を黒沢さんは社長でではなく親父と呼んだ。
 前述のとおり黒沢さんは幼い日に両親を亡くし鍵さんに引き取られて瞳さん共々育てられた。
 子供を持てなかった鍵さんにとって二人は本当の子供のようだったのだろう。
 黒沢さんが鍵さんに忠誠を尽くすのはその恩と愛情に報いるためなのだろう。
「でも親父、これでいいんですか。あいつを野放しにして本当に。瞳の仇は!」
 泣きじゃくる黒沢さんを鍵さんは子供のように抱きしめた。
「大丈夫だよ。他は知らず、この街にはこの街の正義があるんだ。あとは任せよう」
 鍵さんは視線を動かし俺を見つめた。
 俺は黙ってうなずいた。この街の正義…… か。
「そうよ、家族は増やせばいいのよ!」
 何か突然場違いなスイッチが入った声がした。
 アリスが黒沢さんに駆け寄り何か励まし始めた。
 紹介する手間が省けたな。まあ頑張ってくれ。
 シェリフも黒沢さんに近寄り「君も来てもらおう」と告げた。黒沢さんは静かに頷いてシェリフの車に向かっていった。鍵さんも「私も行きます」と告げて去っていった。アリスは黒沢さんの背中に手なんか回していた。
 状況終了。
 俺はジュンを振り返った。まだおびえて突っ立ったままだった。
 送ってやるから今度こそ帰れよと告げると黙って頷いてくれた。
 家族を奪われた者、奪った者。
 俺は奪う方の人間だ。
 やっぱりただの悪党じゃないか。
 三郎が不快そうな顔で俺の横を通り過ぎてつぶやいた。
「腹黒のいけ好かない奴だった」
 俺は「ああ」と頷いた。
 腹黒か。あいつの腹には水銀がお似合いだな。
 
 銃という物は火薬を発火させ、その膨張力で鉛や銀などの弾丸を打ち出し運動エネルギーで目標を破壊する道具だ。
 大昔の火縄銃から現代の高性能銃、さらには戦艦の大砲までその理屈は変わらない。
 生きた目標を攻撃する場合、貫通力に優れた弾丸で急所を打ち抜けばほぼ確実に殺傷することができる。
 しかし急所をそれてしまった場合、弾丸は目標を貫通してしまい運動エネルギーを無駄に放散してしまうことになる。
 そこであえて貫通力を殺し目標に命中すると同時に運動エネルギーの全てを目標の体内で放出して破壊する弾丸がある。
 一般的にはホローポイントという弾丸だ。
 狩猟や対人用に多く使われるこの弾の構造は簡単だ。
 先端を柔らかいむき出しの鉛にし窪みを付けてある。
 これにより命中すると弾丸はマッシュルーム状に潰れて目標の肉体でストップする。
 エネルギーは目標の内部で放散されるため広範囲に肉体が破壊され殺傷力は跳ね上がるのだ。
 俺はそのホローポイントを万力で固定しドリルで先端の窪みをさらに広げた。
 その窪みに水銀を注ぎ溶かした蝋で蓋をする。
 これを火薬を入れ雷管を取り付けた薬莢に取り付ければ特製の水銀弾が完成だ。
 9mmパラベラム。最も普及している大型自動拳銃のカートリッジだ。
「そういうのは俺の仕事だぜ?」
 ジムが眉をひそめながら言ってきた。確かに銃の整備やカスタムは普段ならジムの仕事だ。
 俺は軽く笑いながら返した。
「いや、これはジムの仕事じゃないさ」
 俺はもう一発水銀弾を作り始めた。

 数日後リックは鑑別所に送られる事になった。
 未成年だし奴のいう通り13歳だから所謂裁判は行われずお役所の判断で少年院行きという所だろう。