春の嵐の前に
そして、俺たちの別れのときがやってきた。
卒業式が終わって、俺と考太は校舎の屋上へと昇った。
屋上からは、街が一面に見渡せた。
目にしみるような青空を、雲が流れていった。
「考太。これからどうするんだ?」
俺はたずねた。
「前いた施設に戻るよ。そこから中学にも通う」
考太はきっぱりと言った。
「そうか。じゃあ、中学は別々だな」
「卒業なんて馬鹿みたいだよ」
考太はつぶやいた。
「潤。頼むからぼくを忘れないでよ」
「忘れるもんか」
「憶えておいておくれよ」
「ああ、絶対に憶えておくよ」
俺は孝太の肩に手をまわした。
「他のヤツらが何て言ったって、俺は孝太のこと、好きだよ」
「うん」
「いいヤツだって思うよ」
「うん」
「きっともうすぐ、孝太は強くなる」
「本当に?」
「本当さ。誰にも負けないくらい強くなる」
「嬉しいよ」
孝太の肩はかすかに震えていた。
「いい絵描きになれよ」
俺は孝太の肩をぎゅっと抱き寄せた。
「うん」
春の嵐がそこまで来ていた。すべてをなぎ払う激しい嵐が。