機巧仕掛塔ラステアカノンのトルティーネ
人魚の涙〜a tale of Siren
「あ、なんか泉の中で光ってるよ〜?」
中央に、長い尾をひく魚を模した彫刻が飾られた噴水。その縁に腰掛けたトルティーネは、泉の中にふとキラキラ反射するものを見つけました。袖も捲らず、水の中に手を入れたトルティーネに、両腕を上げたうっさんが怒ります。
「こらトルティ!普通、濡れるとわかっていたら袖を────」
「うぅん・・・雫石?なんだろぅこれ〜?」
うっさんのお叱りもトルティーネは全く気にすることなく、手にした透明な欠片に興味津々です。滴る水がローブを濡らしても、全く気にしません。
「ぴぃ!ぴぃ!ぴ!」
「んー?どうしたのぴぃ・・・よく見て?う〜ん、え〜?」
「ぶるぶるぶる・・・」
「いぬ、お前も何かあるの??」
「ぶるぶるぶる・・・」
「うん、全然わかんないー」
「(がーん)・・・くぅ」
ぴぃの言っていることはわかるのに、いぬの言いたいことはさっぱりなトルティーネは、悪気もなく切り捨てます。
しょんぼりしたいぬは、前足に顔を埋めるようにそのまま丸くなってしまいました
「これ、なんの“パーツ”なのかなぁ?」
トルティーネは飾りのついた雫のような欠片を翳して陽光に重ねます。覗き込んだ視界の中でふわりと、舞い落ちてくるものがありました。
「────あ、・・・羽〜?」
真っ白な羽根が一つ、淡雪のように藍色の水面に溶けていきます。それはまるで夜空に流れる天の川のように広がって、消えていきます。
「・・・海、かなぁ。あ、歌声がするね〜・・・?なんだか切ない・・・女の子の歌声だね〜?」
『──遠いあの日、星降る夜。静寂に響く歌声。海の色に照らされて貴女はいた。
──人ならざる羽、美しい瞳。紺碧の空へと舞う姿、その全てに見とれた・・・』
波が静かにひいていくように、メロディが遠ざかっています。目を瞑って耳を傾けていたトルティーネは、余韻に浸りつつしんみりと呟きました。
「そっかぁ〜セイレーンに・・・、会えるといいねぇ・・・」
瞬きを繰り返して、水晶を通して視える誰もいなくなった海辺を見つめます。
今しがた“覗いた”物語を胸に刻み込むように、トルティーネは“パーツ”を両手で包み込むと、勢いよく立ち上がりました。
「よぉし、これはどこかに飾っておこう〜!」
「こらトルティ!それはいつもダメだと言っているだろう!」
「えーなんでぇ〜?キレイだし、いいじゃん〜」
「パーツを炉にくべるのが、お前の仕事だろう!」
「行くよ〜ぴぃ、いぬ!」
「ぴぃ!」
「ぶるぶる・・・!」
「あっこら逃げるな!待たんかトルティ!トルティー!トルティーネ!」
しんみりとした情緒はどこへやら。すぐにいつもの調子に戻ったトルティーネは、うっさんの静止を振り切って駆け出します。
手にした宝物に胸を踊らせながら、嬉しそうにスキップをして。
「これは空の見える庭園に飾っておこっか〜。そうしたらあの子達も、会えるからね〜」
「ぴぃ〜い!」
「ぉ〜ん!」
トルティーネはにっこりと微笑みました。
海から空に向かう、次の物語を予感しながら。
手のひらの中で、きらりと。“人魚の涙”は光り、形を変えていきます。
作品名:機巧仕掛塔ラステアカノンのトルティーネ 作家名:el ma Riu