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機巧仕掛塔ラステアカノンのトルティーネ

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シェブロアの一つ瞳〜code name:Euphy


 <吹き荒ぶ風の合間に混ざるのは、死屍累々に蠢く魔物の呻き声。足を踏み入れたら最期、冒険者は屍と化して朽ち果てる>

 ─────ウォ〜ン、グゥオーン、グーン。。
 まるで迷宮のように入り組んだ機巧仕掛塔ラステアカノン。その構造は常に流動的で、さっき開いた扉も次に開けばまた別の場所に繋がっていました。人気もないのに、あちらこちらで“音”がするのはいつものこと。けれど、今日はいつになく奇妙な音が木霊していました。
「なんだろこの音〜?変なのー」
 王様の住むお城かくやという、両脇には巨大な柱が等間隔に並び大理石の床には赤い絨毯が敷かれた、立派な造りの廊下。
 そのど真ん中に座り込んだトルティーネは、首を傾げました。
「ああ、あまり聞かない音だな。何かの叫び声にも聞こえるが・・・」
 早く立てとトルティーネを促していたうっさんも、気になったように顔を上げました。
 ─────キア〜、ウォオオ、ゴォーン。。
 亡者の呻きや悲鳴をかき混ぜたような不協和音が壁を震わせます。
「ぴぃぃぃいん〜!」
「あはは〜ぴぃ、似てないよ〜」
 帽子の上で高らかに鳴くぴぃに、トルティーネは顔を綻ばせました。
 そんな愉しげなぴぃとは対照的に、いぬはトルティーネのスカートの中に入り込み、いつも以上に震えています。
「いぬ〜、お前大丈夫〜?」
「ブンブン!ぶるぶるぶる・・・!」
 出てくる気配はありません。
「ぬくいから良いけど〜」
 トルティーネは膝小僧に当たるいぬの温もりに頬を緩ませます。
「調べに行くか」
「え〜嫌だよー。歩き過ぎて疲れちゃったよぅ」
 うっさんだけが真面目な面持ちで(いつもと表情は何も変わりませんが)、緊張感のある様子で歩き出しました。しかしそっぽを向いたトルティーネの発言に、ピタリと足を止めます。
「嫌・・・、だと?」
「だってどこから音がするかわからないし、それに迷子だしぃ・・・」
 ぶーぶー、と口を尖らせるトルティーネに向かって。うっさんは目から光を放出せんばかりの気迫で振り返りました。
「そもそもの迷子は、お前がいきなり窓から飛び出すからだろう!」
「繋がってると思ったんだよぅ。なのに下の景色がいきなり変わっちゃうからぁ・・・」
 トルティーネはもごもごと言い訳を始め、うっさんの怒りは一気に頂点に達します。
「だいたい、いつもいつも、何の考えもなしに飛び出しおって!もっと効率的に“パーツ”を見つけようと思わんのか!」
「思ってるよぅ思ってまぁ〜ふぅわ」
「欠伸をしながら言うな!」
「うえー。それ以上言われたら疲れが溜まって、もっと立てなくなるぅー」
「トルティイイ!」
 そんな不毛な言い合いをしているふたりの背後。
 奥にある玉座へ続く立派な扉が、まるで意思でも持ったかのようにゆっくりと、音もなく、しかし確実に開いていきます。
「うっさんはいつも細かいんだよぅ〜」
「お前はもっとしゃんとせんかッ!」
 独りでに開いた分厚い扉から覗いたのは、ギョロギョロとした大きな“目玉”でした。ふたりはまだそのことに気付いていません。
「もう次は鍵使って、ゆりかご戻ろー!」
「またそうやって楽をしようと・・・!そんなことばかりしているから、体力も気力もなくなるのだ!許さん!“パーツ”を一つでも見つけん限り、鍵を使うのは駄目だ!」
「えぇ〜もう足が棒だよ〜一歩も歩けないよー・・・」
「ならゆりかごにも帰れんな」
「ゆりかごまでなら歩けるよぅ!・・・う?」
「・・・・ん?」
 はた、と。
 ふたりの語尾に、疑問符が付きます。
 ずん、と。
 ふたりの頭上に、何かが覆ったような暗闇が落ちました。
「「・・・・・・」」
 互いに顔を見合わせて、一時停止。
 トルティーネは振り向けば、うっさんは見上げればそれが見えてしまいます。
 しかし、そうしないわけにはいきませんでした。
 ふたりは恐る恐る、ぴぃも同じようにゆっくりと振り返ります。
「「・・・・・・」」
 全員仲良く、緻密な氷像のように固まりました。
 キラキラと輝く豪華な廊下を埋め尽くしてしまう大きさ。縦も横もぴったりな、まあるい球体。真ん中の瞳孔は収縮し、アイスブルーの虹彩はギリギラと光り不気味です。そんな巨大な瞳がぐるぐると回り、トルティーネ達を見下ろしています。
 ─────ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
 猛々しい効果音を背景に、それは絶対的な威圧感を放っていました。
 鐘が三つ鳴る間を置いて。
『ヴォォオオオオ!グルァアアアア!』
「ぬぁんなとぉぉおおお?!」
「いかん!走れぇえええ!!」
 絶叫するより速く、トルティーネはぴぃを握り締めて立ち上がり、うっさんは顔を出したいぬの耳を鷲掴み、目にもとまらぬ勢いで走りだしました。