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ガラスの雨ともう一度

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 『・・・と。ちょっと!良い加減起きてよ!』
 重かった瞼が、上下に引いていく。一番最初に口から出てきたのは、俺を覗き込んでいる悪魔の名前だった。
 「天乃・・・」
 「悪魔、だよ」
 悪魔は平然と言い返す。
 「違うのか?夢で見たよ」
 「当てにするものじゃ無いわよ。夢なんて」
 「見たというより、フラッシュバックに近いと思うんだけど」
 ひょっとして、悪魔にはもう前世の記憶が無いのではないか。そう思いながらももう一つ疑問を解決しようと、周りを見回す。長らく出ていなかったが、どうやら館の周りの隣の空き地の様。天国や地獄、ガラスの国ではなさそうだ。
 「俺、死んでないのか?」
 「馬っ鹿じゃないの」
 ということは生きているのか。
 「生き返った、ってこと?」
 「まだ気付かないの?貴方、生きてるみたいに死んでたんじゃないの。逆だよ逆、今まで死んでたみたいに生きてたの!動く仮死状態、ってこと。人生の無駄遣いよ、全く!」
 「君は天乃なの?」
 「疑問符攻め、止めてよ!」
 そう言いながらも、悪魔はぶつぶつと呪文を唱え始める。やがて悪魔の周りに、一陣のつむじ風が立ち、くるくると囲む。
 「——あたしが天乃かって?」
 風が止む。ブーツを片方履いていない、元の姿の彼女が立っていた。
 「大正解よ」
 「やっぱり・・・!」
 頬を紅潮させる俺をにこにこと眺めている天乃。だが突然尻尾を生やしたかと思うと、元の悪魔に戻ってしまった。
 「はぁ・・・。まさか貴方が、私が悪魔って名乗っても
気付かないとはね!沢山演技して、楽しかったけど相当疲れたわよ!」
 尚も怒りながら、悪魔は愚痴を垂れる。
 「ま、何はともあれ、待たせたわね。あたしが死んでから、今まで74年。今、2039年なのよ。こんなに長い間、引き蘢りだったのね」
 「2039年・・・」
 そう言われても、俺には遠い未来の話をされている様にしか聞こえない。だって、仮死状態の時間を入れて計算してしまえば、俺は現在111歳。だが、外見と肉体、そして中身は全部40歳弱。このズレからして、ピンと来ないのは当然と言っても良いだろう。
 「74年間、あたしはガラスの国に居たわ。悪魔に転生して、昌平さんへの宣言を実現させようって。思いのほか大変だったけれど・・・。必死に勉強してた」
 こっちもこっちで、別の意味でピンと来ない。
 「一人前になって、見た目も好きな様にして、じゃあまずは昌平さんに見せに行こうって思ったら、なんとあの昌平さんが人生楽しくない人の第一号になっているとはね。なんとかガラス細工をしていた目的を思い出して欲しくて過去を見せたのに、あっさりとスルーされたもんだから、どきっとしちゃった」
 「あのタワーの一件で、ガラスは危ないだけなんじゃないか、宝物なんか・・・って気がしたんだ。どうして天乃は、わざわざあれを見せたんだい?」
 「あー、あれね・・・」
 悪魔は可愛らしくはにかんで、頬を掻く。完全に天乃が丸出しだ。嬉しいけど。
 「昌平さんが人と関わらなくなったの、もしかして私が他の人に殺されたと思い込んで、不信感を抱いているんじゃないかと思って。一度、ちゃんと真実を教えようかと。そしたら天乃に会いたいって言うから・・・」
 「化けた訳か」
 「元に戻ったんです!」
 「どうして、そんな小さい姿に?」
 「昌平さんより、あたし三つも年上だったでしょ?どうせなら一度、昌平さんよりうんと年下になってみたかったの!」
 これで全ての謎が解けた。・・・いや、まだ一つ。
 「俺の名前、最初から知ってたのか?だったら教えてくれれば良かったのに!」
 悪魔は久し振りに、あの少し怖い顔を見せた。
 「知っていたけど、そうのうち思い出すだろうと思って。自分の名前も分からないなんて、面白くてしょうがなかったから」
 「・・・立派な悪魔になったな」
 「こんなあたしは、嫌?」
 しおらしく猫撫で声で尋ねる悪魔の尻尾をわしっと掴む。驚いた様に悪魔が声をあげた。
 「ひゃ、くすぐったい!何よ?」
 手の中で、温かい尻尾がバタバタと暴れる。生きている者の体温を感じる。

 転生。

 人は、限りある時の中を進んでいく。