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ガラスの雨ともう一度

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 「随分高く昇ってきたもんだな」
 星の瞬く夜に溶け込めずに、天乃のエメラルド色がはためく。
 「ガラスの国は、もっともっと上だよ」
 「うん、どこまででも行くさ」
 無数に煌めく地上の光は小さすぎて、もうどれが自分の町か分からない。天乃に言わせると、真下が館の屋根らしいが、どこが真下なのかも判別し難い。
 「・・・これだけ高いと、今更ながら怖いな」
 呟いて天乃の反応を見る。
 「そうでしょうね。昌平さん、高い所苦手だったものね。ふふ、やっぱり怖い?」
 ・・・あー、そう取ったか。まあ、本当の意味を悟られても困る訳だが。
 「そっ、そうそう。どうも未だに、高い所は苦手で——おっと!」
 ずるり、と手がガラスの布の表面を滑って離れる。重力によって下界へと連れ戻される寸前、反射的に伸ばした手が天乃の長靴(ブーツ)を掴んだ。背中から冷たい汗が吹き出す。
 「危なかった・・・!」
 「昌平さん、大丈夫?」
 上から、天乃の心配そうな声。情けないな、俺。最後まで迷惑掛けて。
 「すまないね。引き上げてくれるかい?」
 「ええ——」
 天乃が足元に手を伸ばす。そして——
 「御免ね。昌平さん」
 「え・・・?」
 編み上げの靴の紐を、抜き取った。
 「最初から、こうするつもりだったの」
 ずぶずぶと靴から、細い足が抜けていく。それにつれて、俺の体勢もどんどん安定しなくなっていく。
 「お、おい!どうして!一緒に行くって約束だったじゃないか!」
 風が強い。靡いた髪の毛に埋もれて、天乃の顔が見えない。それでも必死に叫ぶ。
 「助けてくれ!俺、落ちたら割れるよ!』
 「昌平さん・・・」
 天乃は屈み込んで、俺に顔を近づける。そして。
 靴を脱ぎ捨てた。

 「割れて」