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連載小説「六連星(むつらぼし)」第61話~65話

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 鏡を覗きながら、響が人前へ出る準備を整える。
『朝の身だしなみは、女性の大切な嗜(たしな)みです。怠ってはいけません』
と、常々、母の清子から口うるさく言われている。
服装が個性を表すとすれば、身だしなみは、その人の生活態度や性格そのものを
示しますと、小さなときから言われ続けている。

 花街では、しきたりと躾(しつけ)が特に厳しい。
花柳界で、長年にわたって生きてきた母の清子は、
『女は、頭のてっぺんから足の爪先まで、細部にわたって常に細心の
注意が必要です』
と女らしさのありかたを、おろそかにしない。
お化粧することを好まない響に向かい、あえてお化粧しろと強制はしない。
『その分あなたは、身だしなみにことのほか、注意を払いなさい』と強調する。
頭髪や衣服を整えることは、身だしなみの第一歩です、と、
いつも厳しく指摘する。
人さまと接するときには、ことばと態度をきちんとすることが大切ですと、
繰り返し何度も、口うるさく説かれ続けてきた・・・・


 『人は見た目が9割なのですから、第一印象で判断されます。
誤解されたまま、道を閉ざされてしまったら、あなたにとってすべてが
不利になります』とにこやかに笑う。
『身だしなみというものは、あなたの心と身体の、健康度のバロメーターです』
『心が健康でないと、女性の一番の武器、笑顔にも迫力が欠けてしまいます』
と母の清子は、女のたしなみを響に教え込んできた。


 (たしかに母は、私の眼から見ても、いつでもチャーミングだ。
 粋で、綺麗で、素養が有って、立ち振る舞いなんか背筋が
 ぞっとするほど妖艶だ。
 女が見ている時でも、そういうことのすべてに、決して手を
 抜かなかった人だ。
 私にも、それをしっかりと教えてくれた。
 こういうことの全般を指して、生きるための術(すべ))と
 いうんだろうなぁ)

 今頃は一人ぽっちで、さびしい思いをしているんだろうか、と
響が母の清子のことを思い出す。
響がそんな思いを、バッサリと断ち切るかのように、茶の間から、
俊彦と山本の大きな笑い声が聞こえてきた。
(女の身支度は、とにかく長すぎる・・・・とでも言っているのかしら。
たぶん私の悪口だ。 それにしても、朝から良いお天気になると人はみんな、
上機嫌になるものだ。さてと・・・準備はすっかり、OKだ)


 朝一番の笑顔の練習を鏡の前で済ませた響が、お茶をいれるために
茶の間へ、最大限の笑顔で戻っていく。
丁寧に入れたお茶を美味しそうに呑む二人を見ながら、響も遅い朝食を済ませる。
先日。山本にお茶を入れてから、響のお茶はすっかり男どもの大好物に変った。
事あるごとにこの二人は、響の入れたお茶を飲みたがる。