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連載小説「六連星(むつらぼし)」第61話~65話

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 あらたに注がれた湯呑みを手に持った山本が、嬉しそうにそれを口元に運ぶ。
「お茶もこんな風にして入れてもらうと、格別に美味しく感じますねぇ・・・・」
と、また目をほそめる。

 
 「原子力発電所での被ばくと、息子の白血病による死に因果関係が
 あるとして、彼の両親が労災申請したのは、1993年5月のことです。
 原発作業員の放射線障害に関する労災申請は、75年以降に
 10件ほどあります。
 このうち、青年を含めて4件が労災の認定を受けました。
 認定された病名は、いずれも白血病です。
 被ばくにより、ガンや白血病を発症しやすくなることは良く知られています。
 そのほかの一般的な病気などにかかりやすくなることも、
 いくつかの研究を通じて、明らかにされてきました。
 しかしこうした実態は依然としていまだに、闇の中に封印されています。
 これだけの放管手帳の総数からみれば、これだけの労災数の認定は、
 まさに氷山の一角にすぎません。
 現に私もその、発病者の一人なのですから・・・・」

 被ばく作業員の健康管理についても大きな問題がある、と山本はさらに語る。
原発の定期検査などで、短期間で雇われた下請けの作業員たちは、
離職した以降の健康診断は、すべて自費で受けるようになる。
労働安全衛生法は「がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務」に
従事した人は離職後に、健康管理手帳を交付すると定めている。
だがその対象は、ベンゼンなどの有機化合物や、粉じんなどを取り扱う仕事と
職種上の限定がついている。
この手帳を持っていれば、国費で健康診断を受けることができる。

 放射線業務が入っていないのは、放射線に接することは危険な仕事ではない、
という認識があるためだ。
原発内の仕事は、階層的に分類されている。
被ばく量がもっとも多くなるのは、炉心付近で作業する下請けの作業員たちだ。
下請けの作業員たちの中には、各地の原発を渡り歩いていく人もいる。
彼らが離職後に体調を崩しても、何の保護もないというのが
原発労働者の実情だ。
山本がそこまで語り終えて、ふと何かを思い出して唇を固く噛みしめた。


 原子力施設で働く作業員の被ばく線量は、放射線従事者中央登録センター
(東京都千代田区)が一元的に管理している。
被爆した線量は、必ず、放管手帳に記載されることになっている。
放管手帳には、被ばくの前歴とともに健康診断、放射線防護などの
安全教育の経歴などもあわせて記入されている。

 29歳で亡くなった青年の放管手帳は、中部電力の発電所で「保修業務」などを受け持つ
元請けの会社、中部プラントサービス(名古屋市)が発行し、その下請けだった
青年の会社に保管されていた。

 治療で通院中だったにもかかわらず、健康診断の結果は作業従事可能と
書かれてある。
入院中にもかかわらず、職場の安全教育を受けたと書き込まれてある。
彼が白血病と診断される一年半前、白血球の数が1万3800という、
異常に高くなった数値が、はっきりと記入されている。
それでもその数値を判定する部分には、『異常なし』の記載が堂々と
残っている。
被ばく線量しめす数値には、いたるところに赤い訂正印が押されている。
ほとんどの数字が、別の書き換えられて有る。