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連載小説「六連星(むつらぼし)」第61話~65話

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 響が沸騰したお湯を、ゆっくりとポットに移していく。
長い時間、空気に触れさせることで、熱湯が95℃位まで下がる。
もう一つ。お茶の淹れ方にもポイントがある。
お茶を入れる際には、ポットから直接急須にお湯を入れず、
一度湯呑みに注いでお湯を冷ましてから、あらためて急須へ戻す。
お湯の温度を低くすることで、渋み(苦み)成分がお湯の中に溶け込むのを防ぐ。
こうすることで、甘くまろやかなお茶を入れることができる。

 「どうぞ」と響が、山本の前へ湯呑みをさしだす。
一口含んだ山本が、「旨い、このお茶は絶品だ」と称賛する。

 「先ほどの言葉は、撤回します。
 恐れ入りました。みごとなまでに、実にまろやかで美味しいお茶です。
 お茶の入れ方といい、食事のときの箸の持ち方と言い、
 躾が身についています。
 お母さんがよほど、しっかりとされていたのですね」

 「ありがとうございます。
 母は芸者をしておりますので、立ち振る舞いは、厳しく注意されます。
 それから、老舗ホテルの若女将と、置き屋のお母さんから、
 いやというほど、小さい頃から仕込まれました」

 「なるほど。道理で、しなやかな躾が身につくはずです。
 お茶も美味しいはずだ。
 おっと。続きを早く話せと催促をするような目で、私を見ないでください。
 話しますのでその前に、もう一杯、美味しいお茶をいただけますか。
 お嬢さん、いえ・・・・響さん」

 響が思わず頬を染めて、苦笑する。

 
 山本が再び語りはじめる。
浜岡原発で9年間働いたあげく、白血病を発症して2年にわたる闘病の末、
わずか29歳と4カ月で人生を閉じてしまった青年の話だ。
彼が被ばくした線量は、全部で、50,63ミリシーベルト。
最多の年でも、9,8ミリシーベルトという低い数値だ。
法令で定められている年間被ばく線量限度の、50ミリシーベルトを大きく下回っている。
5分の1と言うきわめて低い被ばく量にもかかわらず、彼は白血病を発症し、
そして死亡している。

 「1991年ですから、今から20年以上も昔のことです。
 わたしが原発の仕事にはいってから、たぶん3~4年目のことだったと
 思います。
 浜岡原発は、1975年から稼働が始まりました。
 敷地面積の160万平方m(東西1.5km、南北1km)の中に、
 5基の原子炉が建っています。
 老朽化のため2007年に、1号機と2号機が廃炉になりました。
 わたしは配管工として、炉心の周辺の仕事に従事しました。
 すべての原発が一年に一度、必ず運転が停止をされてます。
 数か月をかけて、安全のための点検や、傷つき痛んだ場所の補修をします。
 つまり。一年を通じて順次、原子炉の運転が停まり
 かならずどれかの原子炉で、補修や点検が行われていることになります。
 言い方を変えれば一年中、停止している原子炉で、被ばくが
 繰り返されることなります」