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連載小説「六連星(むつらぼし)」第61話~65話

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 「見ておきたい建物?。名前はわかりますか・・・・」

 
 「場所はわかりませんが、桐生織物会館と言う古い建物です。
 大正ロマンの漂う、赤レンガ風の建物だと聞いてます。
 
 伝統的な桐生織や、現代風の2部式の着物などを、展示と即売をしています。
 桐生は、『西の西陣、東の桐生』と呼ばれているそうですねぇ。
 優れた織物の町としての長い歴史が有ると聞いています。
 場所が近くで有れば、是非、そちらも見学したいと思います」

 響が、ほほ笑みを返す。


 「よかったぁ・・・・。そこなら、よく知っています。
 帰り道とは少し方向が違いますが、15分も歩けば織物会館へ着くでしょう。
 お天気もこのまま、おだやかに続きそうです。
 ゆっくりと一休みしてから、後ほどそちらへ向かいましょう。
 でもなぜ、織物会館なんか、ご覧になりたいのですか」

 「響さんは、2部式の着物というものはご存じですか」


 「母が芸者をしていますので、和服のことならたいてい解ります。
 2部式と言うのは、旅館の仲居さんたちが、ときどき着ているようです。
 本来の着物とは違い、動きやすい特徴がある、と聞いています。
 そのくらいまでは知っていますが、なぜ2部式というのかまでは、
 知りません。
 でもなぜ、その2部式着物が見たいのですか?
 2部式に、何か特別の思い入れでも有るのですか?」


 「あなたは、やはり、油断の出来ないお嬢さんですねぇ。
 生まれてこのかた50年、私は女性と言うものにまったく縁が
 ありませんでした。
 一人身のまま人生を終えるのかと、自分なりに覚悟を決めて生きてきました。
 ところが、私に奇跡がやってきたんです。
 私にとって最後の仕事の場所となった、福島第一原発での出来事です。
 私と所帯をもってもいいという、女の人と出会いました。
 大津波がやって来る、2年ほど前のことです。
 流れ者の原発労働者と、所帯を持ってもいいと言うくらいですから、
 相手の女性のほうも、やはり、いろいろと複雑な事情を持っています。
 そのひとは海辺にある小さな居酒屋を、一人できりまわしていました。
 歳は、私と同じ年代です。
 東北の山村からたった一人で、15歳の時、東京へ出てきたそうです。
 夢に破れて、仕事にも疲れ、太平洋の東海岸を北上しながら、
 あちこちで水商売の仕事を続けたそうです。
 転々と生きていく身の上が、どこか似ていています。
 お互いに身の上話をするうちに、いつのまにか私たちは意気投合して
 そのまま自然に、一緒に暮らし始めました。
 少し勝気ですが、相手を思いやる優しい一面も持っていました。
 2年間。私たちは、水入らずで楽しく過ごしました。
 その彼女が仕事着も兼ねて、よく着ていたのが2部式の着物です」


 「東北の海辺で、着物が似合う女性と二人暮らしですか・・・・
 着物が似合う女性は、素敵ですねぇ。
 素敵な出会いだと思います。で、今はどうしているのですか、その人は」