連載小説「六連星(むつらぼし)」第61話~65話
連載小説「六連星(むつらぼし)」第64話
「3つの奇跡・・・」
密集した住宅地を抜けると、路が緩やかに上りはじめる。
人家が途切れると、坂道が急坂に変る。
100mほどの急道を上りきると、ようやく、目的地の吾妻公園が見えてくる。
寒い冬が長引くと4月に咲くはずの桜と、5月の連休の前に花盛りを迎える
チューリップ、が一緒に咲くことが有る。
「桜とチューリップと一緒に、何故か今年は白梅まで残っています。
竹林までの坂道には、山に沿って、黄色の山吹きが咲いていましたねぇ。
今年はいつになく、とりどりのお花が揃っているそうです・・・」
坂道の途中で立ち停まった響が、そんな風にささやく。
10数年ぶりという今年の寒波は、関東地方に3月の半ばを過ぎても、
春を訪れを呼ばなかった。
2月の半ばから花をつけるはずの梅も、ひと月近くも開花が遅れた。
4月に入り温かさが増してきたとはいえ、結局、桜の満開も
また10日以上も遅れた。
「おかげで、こうして奇跡の光景を見ることができるわけです。
それにしても自然のなせる技には、凄いものが有りますねぇ。
東北地方では、リンゴと桜、時には桃なども同時に咲くという光景を
見られますが、このあたりで梅まで残っていたとは、実に・・・驚きです」
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第61話~65話 作家名:落合順平