連載小説「六連星(むつらぼし)」 56話 ~60話
連載小説「六連星(むつらぼし)」第57話
「またおいで、福島へ」
「また。きっとおいでよ、福島へ。
あたしはいつでも広野町の、あの古い家で待っているよ。
嬉しかったさ。あんたが突然訪ねて来てくれて。
いまはいくら待っても、むかしの住民だって訪ねて来ない町だもの。
放射能で四苦八苦している被災地に、誰もくるもんか・・・・
あんたの勇気に、あたしもあたらしい元気をもらったよ。
あんたの笑顔、とっても可愛いしねぇ」
そう言いながら、かえでが福島駅の新幹線ホームの上で、
何度も響と、別れを惜しむ。
最後に響をしっかりと抱きしめたまま、ホロリと涙を落とす。
「息子夫婦だって、帰ってくるのを渋っている町だ。
こんなにたくさんおしゃべりをしたは、あの日以来、初めてかもしれない。
気をつけて帰るんだよ、あんた。身体を大事にしてさ。
きっとまたおいで、広野の町へ。
じゃあね、またね。ありがとうね、気いつけてねぇ」
発車メロディの『栄冠は君に輝く』がホームに流れてきた頃、
かえでの顔は、もう涙でボロボロになっていた。
それでも窓越しに、涙でくしゃくしゃになった笑顔のまま、
何度となく、懸命に手を振ってくる。
(私の方が優しさをもらったし、かえって激励されたというのに、
なんでお別れの時になると、こんなに哀しくなるのだろう・・・・)
酸っぱくなってきた胸の気持ちを抑えながら、響も最後まで
かえでに向かって手を振り返す。
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」 56話 ~60話 作家名:落合順平