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「…実はね…こんなこと生徒である君に危険なことを僕が頼める立場じゃないのはわかってるんだが、警察にはちょっと言えない事情でね」
まどろこしい言葉を並べ中々本題を切り出さない先生に苛立ちを覚え始めたとき、不覚にも後ろのドアに注意を怠っていた。それは今ここに出てはいけない人物を放つことになる。
「へぇ〜どんな情報を話してくれるんだ?」
突然声をかけられ先生はたじろいだ。それもそのはず聞こえてきたその声は聞き覚えのある声だったからだ。それに姿が見えないんじゃ驚かないほうが恐ろしい。
「何だ?」
落ち着きを装いながら周りを見渡す先生の姿は滑稽だが笑う気にはなれなかった。むしろ冷や汗が背中をなぞりゾクリと身震いさせた。
「いい加減気づけよ。人間」
「おい! クロ。やめろ!」
声に出して制止の言葉を吐いたが時すでに遅し、先生は声の主を発見してしまった。
「えぇ! ね、猫がしゃ、しゃ、喋っている!」
当たり前の反応に少し安心しながら、ゆっくりと今の状況のヤバさに気づき始めた。声は確かに事件の重要参考人にされてる謎の男のものなのに姿は不気味な黒猫。大体、人語を理解し、ましてや話せる猫など見たことがなかったのだろう。まぁ当たり前だが、先生はパニックっているらしく慌てふためいている。
「なんで話しているんだよ! もしかしてセキ先生まで聞こえるように話しているのか?」
「よくわかったな。こいつは良い情報を持っていると感じてナ。ちょっと話してみたんだ」
呑気に語るクロは意気揚々としている。どうやら先生の反応が面白いらしい。
「ど、どうして、君は驚かないんだ?」
先生は化け物を見るような目でボクとクロのやり取りを見ている。
「あ、えぇっと…それは、なんと言うかちょっと訳有りで…」
苦し紛れの言い訳などこの状況で言えるはずがなかった。頭を悩ませながらこれまでの事情を包み隠さず先生に説明した。


「な、なるほどね。世界には不思議な体験をする人物も居ると聞いていたが、まさか自分がその本人になるとは考えてなかったよ」
少しどもりながら話す先生はいつもの穏やかさを取り戻したらしい。呑気に今の体験に感動している。
「な! 大丈夫だったろ?」
「何が大丈夫だよ。何も知らされないまま勝手に自分勝手な行動をお前がとったんだろ!」
憤慨して紅潮した顔にまた熱が溜まる。なんだか怒る回数が多くなった気がするのは勘違いではなさそうだ。
「まぁ、とにかく情報を聞かせてもらおうか、先生?」
我もの顔で堂々と振舞うクロにただ呆れてものが言えなかった。
「情報…と言えるのかどうかわからないんだがね、実は十年ほど前にこの事件とよく似た事件に巻き込まれて妻が亡くなったんだ」
衝撃的な告白にどう言葉を発していいのか分からなかった。ただそう話す先生の瞳には確かな悲しみの色を垣間見せた。言葉を淡々と紡ぐ先生の横顔をボクは見ているだけしかなかったのだ。
「そのときに妻が極秘に調べていたものをまとめた書類がなくなっていてね。もしかしたら今回の事件をとくカギが書かれてあったのではないかな」
「何を調べていたんですか?」
ボクはあまりその答えを聞きたくなかった。理由はただ不気味だったんだ。なぜかはわからないけど…
「死神についてだよ」
そう言葉を切った先生の顔には脂汗がしっとりと張り付いていた。その隅でひっそりと笑う猫が居たのをボクは気づかなかった。



正直その日学校に行くのは少し憂鬱だった。
先日聞いた情報は衝撃的なものだったし、どういう訳かその日からぴたりとクロが姿を現わさない。不気味だと感じた直感が少なからず当たったのだろうか?
校門近くの横断歩道を渡ろうとすると校門に人だかりが出来ていた。何か騒ぎだって居るようだが良く見えない。もしかしてクロが人型の姿で学校に来たのだろうか?それとも何かあったのか…
「思い過ごしじゃなければいいんだけど…」
人の波を書き分けて騒ぎ立てている問題の原因を見た。
目の前に横たわる一本の大杉。学校に唯一開校以前から残っていた木だ。何故倒れているのかは不明。でもこれはあの事件についで生徒の恐怖をあおるに相応しいミステリーだ。
「何なんだ! これは」
朝早くにこの状態を発見した用務員が叫んでいる。どうすることも出来ない状態にじだんだ踏んでいる様子だ。その様子は滑稽そのものなのだが笑っている生徒は一人も居なかった。
倒れている大杉を見ると大きな穴を開けて根っこから倒れているようだ。モグラかシロアリか何かだろうか?用務員の目を盗み大杉に近づいてみた。
モグラじゃ樹齢百年といわれるこの大杉を倒すことは不可能だ。もう一つの可能性であるシロアリかと思ったがそれもどうやら違うようだ。シロアリならば木の内側は喰われているか住処となって空洞になっているものである。だがこの木はまったくの無傷。何故倒れたのかまったくの謎なのだ。
「鈴木君。これはいったい…」
背後から声をかけられ、内心ひやひやとしながら見上げると急いできたのか汗だくのセキ先生の顔が見えた。
「セキ先生…」
安心して気が抜けたのかなんとも情けない声を出してしまった。
「どういうことだい? これはあの時と一緒じゃないか…」
顔面蒼白の先生の弱弱しい声にただ声が出せなかった。
「あの時って…まさか以前にもこんなことがあったんですか?」
「…あったさ。十年前にも似たような事件がな」
足元から声がした。下を覗き込むと案の定真っ黒な猫はそこにいた。
「クロ! お前何所に行ってたんだよ!」
「ちょっと調べごと」
飄々とする口ぶりに違和感を覚えながら騒ぎの中を通り過ぎる。解決の糸口どころか謎が増えるばかりでなんの手がかりもない。そんな状態が続いている中、最初の犠牲者である『キバ ハジメ』の四十九日が明日やってくる。
「クロ。木場はどうしてその…死神のターゲットになったんだろう?」
以前から気になっていた疑問をぶつけてみる。クロの様子は普段と変わらず飄々としたものだった。
「それは簡単だ。生前アイツは死神について調べていたんだ。それでなくとも寿命が来れば死神はやってくる」
「ちょっと待ってよ! 木場も死神について調べてたって言うのか?」
「そうだ。もともと俺が持っていた情報がそれだ」
それだけ言うと自分はトコトコと先へと足を進めている。ボクと先生もクロの後に付いていく。向かったのは学校内に隣接された小さな教会だった。以前ここは女子高で毎朝教会に礼拝するのが習慣だったらしい。共学になった今となってはたまに生徒が憩いの場として立ち寄るぐらいで静かなものである。
中はそれなりに広く天井は吹き抜けとなっているらしく高い。壁にはステンドグラスが淡い光をともしていた。
「どうしたんだよ? こんなところに来て」
この学校に入学して二年になるがここに来たのは正直言って初めてだ。
「…なぁ、死んだ人間はどこに逝くと思う?」
唐突に切り出された質問に疑問を覚えたがあまりにも真剣な声に正直に答えてしまった。
「え? そりゃぁ、あの世とか天国、地獄とかって呼ばれる所じゃないのか?」
「まぁ、普通ならそう答える。だが木場は違った答えを言った」
作品名:名前を消せ! 作家名:柳 遊雨