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名前を消せ!

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「どうして、ボクがお前みたいな化け物を助手にしなくちゃいけないんだ! お前なんかと調査するぐらいなら一人でやったほうが大分マシだ」
そこまで言い張ると猫は姿を男に変えた。猫よりも幾分か重圧の感じる瞳でボクを睨み付ける。
「確かに普通の人間ならば俺みたいな奴と一緒には居たくないだろう。だがミステリーを好むお前ならと思ってこう頼んで来たんだが…無駄だったようだ。俺を助手にすればこの事件も簡単に解決できるのだがなぁ」
男は早口で言葉を捲くし立てると振り向きながらボクの様子を伺っている。
「どういうことだよ。事件が早く解決するって…」
「もともと事件を発見した、いや、持ってきたのは俺だ。そこら辺の奴よりは事件の真相を良く知っている。つまり、助手にするならこれほど都合の良い者なんていないはずだぜ?」
そういうことなら、話がわかる。だが…
「何ぐずぐずしているんだ? 別にお前じゃなくても俺の正体をばらさなきゃ誰だって助手になることは簡単だからな。どうする?」
脅しのつもりなのだろうか?その状況で断ることも出来ないことを計算に入れ、ボクを追い込もうとしている。どうするなんて答えは決まっているじゃないか。
「…分かった。お前を助手にしてやるよ。その前に聞きたいことがある。お前はどうしてこの事件に介入しようとしているんだ?」
とにかく理由を聞くことに越したことは無い。
「この前名前を書かれて死んだ『キバ ハジメ』は俺の元飼い主なんだよ」
飼い主?あぁ、猫の姿のときか…だから、名前が『クロ』なんだな。
「わかったか? つまり、敵討ちだよ。ご主人様のな」
「それはわかった。…早速事情を話して欲しいんだけど…」
こいつの持っている情報を知ってる限り吐いってもらわなくては助手にした意味が無い。
「おっと! ちょっと待ってくれよ。俺の情報なんて高が知れてる。まずは聞き込みから始めたほうが良いんじゃないのか?俺の情報はその後でゆっくりと…な?」
こいつ…最初から言うつもり無いんじゃないのか? そもそも情報なんてあるのかさえ怪しいのに…
「心配するな。それなりにちゃんと筋のある情報は持っているからさ。さぁ、行こうぜ!」
本当に言葉にしなくても答えは返ってくる。やはりこちらの考えていることが読めるらしい。クロはボクの様子を少し伺いながらドアの方へと足を進める。数歩進んだと思ったら刹那の差で猫の姿に変わっていた。まだ猫の姿のほうが行動しやすいようだ。確かに男の姿のままでは不法侵入はもちろんのこと事件の重要参考人として警察に引き出されるのがオチだ。
「ほらどうしたんだよ! 置いてくぞ? 探偵!」
猫のクロはそそくさと廊下を走り出した。
「ま、待てよ。って、ボクの名前は『探偵』じゃないぞ!」
どうやらボクのあだ名が決定してしまったらしい。
 

早速調査を始めたのだが良い情報は中々得られなかった。
「おい…どうするんだよ。全然情報ないじゃないか!」
ボクはあまりにも有力な情報のない調査に先が見えず、焦りが増していた。
「子供だな。調査というのはじっくりと年密に調べ上げることを言うんだ。早々情報が見つかると考えるとは片腹痛いね」
クロはまるで大人のような口調で軽く呆れた様子を猫の姿のまま声に出して僕を見上げた。
「うるさい! 大体猫のまま話すなって言っただろう!」
「はいはい。でも話さずにどうやってお前と会話するんだ?」
クロはさも自分が正論のように話し出す。それは確かにそうだが、そんなことは人気のないところで言うものだろう?何でわざわざ人気の多い東通路の真ん中で話すんだ?
「それは、ココが事件現場だからだろう?」
「それはそうだけど、このままだとお前の声が聞こえなくとも僕の声が聞こえてボクは不振人物扱いになるじゃないか! 少しくらいボクの身になれっていうんだ」
息の荒くして声を捲くし立てるとクロはさも面白くなさそうにボクの目の前を素通りして行った。
「おい! どこ行くんだよ!」
ボクは早々と立ち去ろうとしているクロを呼び止めた。クロは振り向いてこう言った。
「ココは人通りが激しいんだろ? だから人気のないところに行くんだよ」
クロは当然というような様子で走り去ってしまった。それをボクは唖然と見つめ。数十秒後にその後を追いかけた。

その様子を物陰から伺っていた人影にボクは気づかなかった。

「どうしたんだよ? いきなり動き出したりして…」
部室の廊下にでる階段を上ると唐突にクロに呼びかける。
「あそこにこちらの様子を伺う奴が居たんでね。取り合えず避難って事」
「え?」
こちらの様子を伺っていたって…いったい誰が?
「お前は声を出さなくてもいいぞ。お前の考えていることは分かる。俺の声は特別だからな。お前ぐらいしか聞こえない」
突然の申し開きに驚いているとにんまりと不気味な笑顔でボクを見た。
「何だ? わからなかったのか。俺の声は俺が話したい相手しか聞こえないんだよ」
「え? それじゃぁ馬鹿みたいにボクは独り言を廊下のど真ん中で喋っていた訳? 何でそれを先に言わないんだよ!」
ボクは紅潮した顔にさらに熱を加えるような怒りをクロに向ける。その間にもクロは不気味な笑みを浮かべ、ボクの様子が可笑しいかのように楽しげに見ていた。
「何で教えなかった、だって? そりゃもちろん慌てふためくお前の様子が可笑しいからだよ。」
悪びれた様子もなく、クツクツと笑うと部室のドアを器用に開け中に入ってしまった。
「つまり、面白がっていたんだな」
「そういうこと」
姿を見せず、声だけがボクに聞こえてきた。なんだか虚しく感じ、涙が滲んだ。


コツコツ…
妙な足跡が耳に届いた。その音には聞き覚えがある。
「鈴木君。ちょっといいかな?」
担任であるセキ先生はいつもの優しげな笑みを僕に向けた。なぜここに先生が居るのかこの時はわからなかった。けれど、直感的に何かあると感じていた。
「何か用ですか? ボクは今から部活なんですが…」
「部活と言っても君一人だろ? 少しくらい時間を割いてはくれないか?」
先生は静かに独特の穏やかな口調をして、痛いところを突いてくれた。
「…何ですか?」
渋々半ばやけくそに尋ねる。部室のドアを後ろで閉め自分の体でガードする。勘違いであろうと校内に猫を飼っていると疑われる訳にはいかない。まだ人間のときよりは大分マシだが…
「君が先日の事件を探っていると噂を聞いてね」
「ただの噂でしょう? 噂くらいで疑われるのは教師としてどうかと思いますが?」
面白くない顔をして見上げると先生は変わらずに笑顔だった。悪態を吐いたはずだが聞こえなかったのだろうか?
「そうだね。いや、注意するために来たわけじゃなかったんだが…これは失礼したね」
踵を返して立ち去ろうとする先生に何故か不信感を抱いた。注意するために来たわけじゃない?この先生は滅多なことがない限り嘘を言う人物じゃない。
「ちょっと待ってください。どういうことですか?注意しに来たわけじゃないなら何のためにこんなところまでボクを訪ねたりしたんですか!」
こんな辺鄙なところなど教師ですら足を踏み入れないような場所だ。
作品名:名前を消せ! 作家名:柳 遊雨