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名前を消せ!

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あの事件から五日が経過しようとしている。
あの後、放課後に調べた結果、あの染みの中に一人の名前が書かれていた。その人物は二学期中間考査、一番最下位の、『キバ ハジメ』という人物だった。
一位の人物だったならそれなりに理由をつけることが出来るだろう。しかし最下位ともなれば邪魔というわけでもなく、むしろ最後になってくれて感謝されるような人物ではないだろうか?
そしてもう一つ、彼は入学して以降、首位を独占していた人物でもあった。それが何故いきなり…
教師たちは男の言葉など信じてはいなかったが、生徒たちが怖がってしまい勉強に身が入らないと言い出したのだ。県内屈指の進学校だ。こんな馬鹿げた事件のせいで学力を落としたくなかったのだろう。渋々あの染みを消そうとした。

だが、その染みは決して消えることは無かった。

その結果、『キバ ハジメ』は謎の出血多量で事件の三日後亡くなった。まさに、あの男が言っていたように。
生徒たちの恐怖心はもう限界だったのだろう。生徒の数名がこの学校を去っていった。その中にはボクの親友もいた。
あの男『クロ』はいったい何者なのか?
消えない名前を何故、『名前を消せ』と言ったのか?
それに『クロ』という名前にも違和感を感じるのだ。ありきたりでまるでペットのような名前にボクは何故か引っかかっていた。


薄暗い東教棟の奥にある『ミステリー研究会』部室。
この棟は明治初期に建てられたということもあって洋風でヨーロピアンな印象を受けるところだ。この棟に一般教室は無くほぼ文化部・同好会・愛好会などの部室として宛がわれている。しかし、この教棟を使用している部活は今はここのみ。理由は簡単。来年には老朽化の問題でこの校舎は取り壊される予定だからだ。その他の部活は新校舎のほうへと部室を移している。かくして何故この『ミステリー研究会』だけが取り残されているかと言うとこの部活も来年には廃部が決定しているからだ。もちろん部員はボク一人で現在ボクは二年生。この学校では部活は二年生の三月までという校則がある。まぁ、進学校なら有り得るものだがなんだか寂しいものだ。
ミステリーは好きだが現実なんて寂れたものだ。ミステリアスな事件など平和そのもののこの街に起こった試しが無い。永遠にこのままなんだろうと思っていた矢先の事件がこれだった。
確かに怖いことは怖いのだが平和な日常に満足していなかった者としては吉報だった。自分も狙われる可能性のある中でなんとも呑気な奴だって自分だってわかっている。
そんなことよりも日常を回避できるチャンスなのだ。
ガチャ…
部室のドアを開ける。物静かな校舎に響くこの音は少しばかり快感を覚える。
ドアを開けた瞬間、前髪がふわりっと流れた。風がドアを通り抜ける。
窓が開いていたようだ。薄い白いカーテンがバタバタと音をだして靡いている。
「あれ? 窓なんて開けたかな?」
そんな独り言を呟きながら窓に近づくと何かが横切った。
一匹の黒猫だった。
黒猫の目は普通ではなかった。普通の猫ならば黄色の目をしているのが普通だ。だがこいつの瞳は黒だった。引き込まれるほどの黒耀の光はどこかで見覚えがあった。
「ニャァ〜」
一声出して気がつくと猫はボクの机の上に座っていた。
「お前どうやって入ってきたんだよ。それに、変な目をした猫だな…」
素直な意見を呟きながら猫を持ち上げる。
にゃあ…
一声鳴いたその瞬間、ボクの手から簡単に抜けでてしまった。スッタっと良い音のしそうなほど見事な着地を見せ付けて名も無い猫は扉の向こうに消えてしまった。
「何だったんだ? 今の…」
何故か不機嫌になっていたことに自分でも驚きだが、何より小さなミステリーをまじかで見ることが出来たのは良い傾向の証なのだろうか?
ボクはひとまずこれまでの出来事をまとめてみることにした。
第一に謎の男の出現。これはこの学校の関係者ではないことは明白。この学校にもセキュリティというものはちゃんと存在する。それをどのようにしてかいくぐり学園内に潜入できたかは謎…
第二に男が発した言葉の意味についてだ。あの男は何度も言うようだが『名前を消せ』と言った。その後に起こるであろう出来事を見越しての言葉だったのだろうが、なぜその事実を知っていたかは謎…
第三に消えない謎の字について。そもそもこれが一番の謎だ。何の目的で現れたものなのだろう。どんなにこすっても消えなかったあの字が『キバ ハジメ』が死ぬと同時に消えたという。まさに死神のようではないか…
とにかく、こんな事態に陥ってしまっては学校側としても大問題だ。探偵やら、退魔士なんかを裏で雇っているという噂だ。まぁ、これは噂でしかないが十中八九本当のことになることは誰が見てもわかること。さすがにこの事件を一人で追うのは骨が折れる仕事だ。誰かもう一人でも助手が欲しいところだが生徒、教員は恐れおののいて事件になるべく関わらないようにしているし、難しい話だ。
「はぁ〜…」
一息ため息を吐いて天井を見上げる。背筋を伸ばすとなんだかストレスの溜まった中年のサラリーマンのようだ。
「…お困りなら俺が助手になってやろうか?」
不意にかけられた声に内心、驚きを隠せないでいた。それもその筈、そこに立っていたのは、噂の謎の男だったからだ。



「お前…どうしてココに…?」
「どうして? と言われてもなぁ。ずっとここに居たぜ?」
悪びれる様子も無く淡々と告げる口元はわずかにつりあがっている。
「何? どう言うことだ? ココにはボクしかいなかったはず…」
「居ただろう? お前以外に黒猫が一匹」
確かに先ほどまでココにはボクと不思議な猫がいた。それを何故知っている?まさか…いや、そんな筈は無い。猫が人間になるだなんてどう考えても非常識だ!
「ココは非常識を研究する場所なんだろ?」
男はボクの考えていたことについて言葉を返してきた。この男、考えていることがわかるのか?
「まぁな。お前の考えは正しいよ。俺は人間の頭の中が読める」
「そんな非常識信じるものか! 大体お前があの黒猫だったという証拠も無いだろう!」
自分らしくもなく騒ぎ立てるように相手に詰め寄る。なんだか調子が狂っているようだ。
「結局はお前もココの連中と同じ価値観しかもっていないんだ。なるほど、これが『頭の固い人間』か」
男は右手を振り呆れた様子でボクを見つめる。
「いいぜ。証拠なら見せてやるよ。…目の前でな…」
そう言うと男は軽やかに体をくねらせ見る見るうちに黒猫へと変化した。
「…お、お前化け猫なのか?」
正直なところ頭の中は錯乱状態で言葉に出来たのは素直な感想だけだった。
「失礼な奴だな。俺は化け猫じゃないぞ!ただの特殊変異の猫だよ」
「特殊変異〜? なんだそれ…もしかしてそれで納得させようとしてないか?」
黒猫の姿のままで会話している姿は明らかに化け物じみているのだが、これ以上混乱するわけもいかない。
「別に納得しなくてもいいけど、こういう生物がいるってことは確認しただろう?さて、話は戻るが俺に助手をやらせてくれ」
先ほどまでの楽天的な声とは違い、真剣な声で真っ直ぐボクを見据える。
作品名:名前を消せ! 作家名:柳 遊雨