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WonderLand(上)

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 幸せな家庭がある一方で、ちょっとした日陰の欲求から、家庭を潰さない程度のお遊びをしたがる男の人たちがいるの。あなたのパパもそう。セックスフレンドとか、そういう軽いノリのお遊びね。
 あたしは、そういう男の人たちにつけこんで、彼らが気付かないうちにその日向を、つまり幸せな家庭とか、そういうものをじわじわと潰していってやりたいわけ。光を失っていくとも知らずに、あたしに乗っかって必死に腰振ってるなんて、ホント、楽しいわ。
 自身の幸せをお札のように抜き取って、あたしから夢と快楽を買ってる…そういう意味で、お客様なのよ、とてもあっぱれな」
 わかる?と、ウサギはあたしを覗き込むようにして聞いた。大きな二重の目をぱちぱちと瞬かせて、その顔は天使のように無垢だった。
 突拍子のない話を、まるで物語を聞かせるような口調で話すものだから、まったくリアリティーがなかった。薬で眠らせるやらお金を抜くやら、日陰やら日向やら、まるでピンと来ないことばかりで、あたしはウサギの話を全然咀嚼できていなかった。
 ハンチングをかぶった男性は、「気の毒なもんだ」と、まるで他人事のように酒を啜った。リリーさんは何も云うことなく、黙って煙草をふかしていた。
「人間にはね、必ず表と裏があるのよ。綺麗な部分と汚い部分。アリス、あなたにも覚えがあるでしょう?友達と仲の良い振りをして、でも心の中では悪口を云ったこと。家で仲の良い夫婦のように見えるのに、外では他の女を抱いているパパ」
 あたしはドキリとした。怒りではない、不安や恐怖のような、心を不穏にする感覚だった。
「あたしは、それを日向と日陰って云ってるの。ほら、お日様ってとてもきらきらして綺麗じゃない?日向だけしかないのなら、人間はとっても素敵よ。世界だって、とってもとっても綺麗だと思うわ。
 でも、木が立ってたら木陰ができるように、光を遮断する物があれば、必ず影が射すわ。人間も同じ。人間に意思や欲求が備わっている限り、影からは逃れられない。そもそも日向なんて言葉や概念は、影なしには存在しえないの。人間に、とてもぴったりじゃない?」
作品名:WonderLand(上) 作家名:紅月一花