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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ローゼン・サーガ

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 凄い剣幕でシビウがキースの胸倉を掴んだのを傍観しているキロスは、呟くようにシビウに質問した。
「だいぶ前から寒かったと思うんだけど、何で今まで何も言わなかったの?」
「だって、皆、平気な顔してどんどん進んで行くから……。皆我慢してるんだと思ってさあ、言いづらかった……」
 シビウは顔を真っ赤にした。彼女は勝手な思い込みで他の者に負けじとやせ我慢をしていたのだ。
 恥ずかしさで顔を真っ赤にしているシビウの近くにフユはわざわざ行って、シビウにしか聴こえないくらいの小さな声で呟いた。
「――おばさんなんだから無理は駄目だよ、ふふ」
 すぐさまフユは逃げるようにして飛び去って行ってしまった。その場に残されたシビウの顔は余計に赤く染まっていたが、シビウは怒らなかった。ここでシビウがフユのことを怒って、追い掛け回そうものなら、相手の思う壺である。
 表情に少し出てしまっているがシビウの腹の中はもっと煮えくり返っている。が、シビウが少し冷静になって前を見るとすでに他の者は先を進んでいた。
「シビウ姐さん置いてっちゃいますよ!」
 再び顔を赤くしたシビウは走ってキースたちを追いかけた。
 ちょうどシビウがキースたちに追いついた時、前方には大きな口を空けた洞窟が待ち構えていた。
 洞窟の入り口は誰かの手が加えられ、綺麗に長方形に削られていたその洞窟の入り口の横には魔人を象った彫刻が施されていた
 フユはキースたちを案内して中に早く入ろうとするが、キロスは嫌な予感を感じ、足を止めてしまった
「この奥に何か恐ろしいものが待ち受けてる気がする。〈王〉の記憶がそう僕に語ってるんだけど、僕の受け継いだ〈王〉の記憶や力は全て断片的なもので、この奥に何があるのか正確にはわからないんだ。でも、嫌な感じがする」
 だが、このルートを通らなければ〈ガイアの臍〉には辿り着くことができない。意を決したキロスと共に一行は洞窟の中へ進んで行った。
 中は大きな円形ドーム状になっており、巨大な扉と、その前には金属でできた巨人の像が立っていた。この像が置かれている場所は不自然である。像が明らかに邪魔で扉を通ることができない。
 ギィィィと何かが軋む音がドームに鳴り響いた。それは巨人の像だった。巨人の像が手に持っていた巨大な斧をゆっくりと上げたのだ。
 素早い行動でいち早く動いたのはシビウだった。彼女は二対の魔剣を抜き、果敢にも自分の三倍もの身長の巨人に向かって行った。
「門番ってわけかい? でもね、ここは何があろうと通らせてもらうよ!」
 魔剣を持ったシビウが円舞を舞う。だが、その攻撃は巨人の持っていた盾で?塞がれて?しまった。?全て?を切り裂く魔剣が軽々と防御されたのだ。
「何ぃ!?」
 剣と盾が激しくぶつかり合った衝撃で、シビウの身体は後方へと吹き飛ばされてしまった。シビウには何が起きたのかわからない。この剣は全てを切り裂く魔剣ではなかったのだろうか?
「何で斬れないんだい?」
「あっ、ちょっと思い出したかも!」
 キロスが手を叩きながら大声をあげた。
「あの巨人の持ってる盾は空間を歪ませるんだよ、だから、切れてないんじゃなくって、別のところを切ってるわけさ。しかもね、あの巨人、魔導が一切効かないんだよねぇ〜って〈王〉の記憶の断片が語ってる」
「魔導が効かぬのなら、どうやって倒すのだ!」
 そう言いながらもキースは魔導で稲妻を作り出し巨人目掛けて放った。が、稲妻は巨人の身体に吸い込まれ、巨人がびくともしていない。
 フユの周りに風が巻き起こる。次の瞬間、巨人の周りから巨大な氷の刃が発生し、巨人の身体に鋭い刃が放たれた。氷の刃は何時にも増して強力なものであったが、金属の身体に弾かれ巨人はびくともしていないが、氷の刃は吸収されることはなかったのだ。
「――フユの四季魔導は効果があるみたいだよ」
 魔導は効かなくとも四季魔導ならば効果があるようだ。しかし、この場で四季魔導が使えるのはフユしかいない。
 突進して来た巨人の斧がキースの頭上に振り下ろされようとする。シビウが素早く動いてキースの身体を突き飛ばして巨人の攻撃を避けるが、それしかできない。相手の攻撃を避けることしかできず、反撃をすることができないのだ。
 この場で戦力となるフユは巨人から遠く離れた場所にいた。逃げたのではない、出口の扉に向かっているのだ。
 扉の前に立ったフユは扉を開けようと、押したり引いたりしてみたが、びくとも動かない。魔導で扉を破壊しようとしたが、それでもびくともしなかった。この扉は巨人を倒すまで決して開かない仕組みになっているのだ。
 キロスは何を思ったのか、巨人の背中に飛びつこうと高く飛び上がった。だが、その前に斧が風を切りながら大きく横に振られ、キロスの法衣を少し掠めた。もろに斧の攻撃を受けたら一発で致命傷だ。
「危なかったぁ。――!?」
 ほっと胸を撫で下ろしていたキロスに再び斧が襲い掛かる。キロスは急いで逃げ、それを追う巨人の背後にシビウの魔剣が斬りかかる。が、突然振り向いた巨人の盾によって敢えなく塞がれてしまった。
 巨人から遠く離れたところでキロスが大声をあげた。
「巨人の倒し方思い出したから、誰か巨人の動き止めてくれないかな?」
 その言葉を受けてフユが迅速に動く。巨人の足に氷が絡みつき、巨人の動きを止めた。だが、巨人の足が強引に動かされると、氷は弾け飛びこなごな砕けてしまった。
 再び動き出した巨人を見て、フユがぼそりと呟く。
「――失敗」
 すぐさまフユは素早くキースの横に移動して指示をした。
「キースも四季魔導であいつの動き止めて」
「私に四季魔導が使えるはずがないだろう!?」
「自然の空気、この場の空気を感じて、その力を借りるの。――簡単だから」
 〈世界〉の力を借りること、それはその場に存在する自然のエネルギーを借りること。それが四季魔導。
 キースは目をゆっくりと閉じ、この場の空気を感じた。ここにある空気の中で一番魔導として取り出しやすいもの。それが、わかった時、キースの四季魔導が発動された。
 地面が凍りつき、キースとフユの放った四季魔導が氷として巨人の足に絡みつく。今度こそ巨人は一歩も動くことができず、上半身を激しく動かし暴れ回る。
 巨人が斧を無差別に振り回す中、キロスは巨人の背中に飛び掛かったそして、そのまま巨人の背中をよじ登り、手を巨人の背中に空いていた隙間に差し入れた。
「これだ!」
 歓喜の声をあげたキロスが巨人の背中に手を差し入れて掴んだもの――それは巨人の核だった。巨人の制御が利かなくなった場合のために、巨人の背中から核を壊せるようになっていたのだ。
 キロス核に触れたとたん、巨人が激しい光に包まれキロスの身体が遥か後方へ吹き飛ばされてしまった。キロスが床に叩きつけられ、巨人は動きを止めた。
 シビウに手を貸され立ち上がるキロス。彼は巨人の核に触れた時、ある力が身体に流れ込んできて吹き飛ばされたのだ。
「僕の身体に〈王〉の新たな記憶の断片が流れ込んで来た。あの魔人兵は〈王〉の力で動いていたんだ。その力を受け継いだ僕は、また大きな魔導の力を手に入れた。これで僕も役に立てる……よね?」