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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ローゼン・サーガ

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 〈アムドアの大穴〉の封印は完全に解かれていた。ソーサイアが解いたに違いない。
 外ではシビウが待っており、それとキースが無事に外に出たことを確認したキロスはキースの服を掴み、シビウに空いている片手を伸ばした。
「僕の手に掴まって!」
 事情はよくわからなかったが、緊迫したキロスの言葉にしたがってシビウは彼の手を掴んだ。その瞬間、キロスを含む全員の姿が突如として消えた。
 消えたキロスたちのいた場所を〈混沌〉の波が呑み込んだ。後、少し遅れていたら〈混沌〉に呑まれていたに違いない。だが、キロスたちは何処に消えたのか?

 ベッドで横たわる少女を見ながらキロスは呟いた。
「ごめんよ、ローゼンを助けるつもりだったんだけど……」
 暗い顔をしているキロスとは対照的にシビウの表情は明るかった。
「この子のあたしたちの仲間さ、なっ、キース?」
「フユが助かっただけでもよかったと思う」
 そう、キロスがソーサイアの身体から引き抜いたのは〈四季使い〉の妖精フユだった。フユは〈混沌〉の中で自己の意識を失わずにいたために〈混沌〉に吸収されずに済んでいたのだ。
 キースは静かに眠るフユの小さな手を握り締め言葉を続けた。
「希望はある。フユがこうして〈混沌〉の中から救い出せたことによって希望ができた。大丈夫だ、ローゼンも生きている、絶対だ」
 以前のキースとは違った。昔の彼ならばローゼンが〈混沌〉に呑まれたことによって大きな衝撃を受け、立ち直れなかったかもしれない。だが、今の彼は信じていた。
「私はローゼンのことを信じている」
 自信に満ち溢れているキースの背中をシビウが強く叩いた。
「キースもいい男になって来たじゃないか!」
 シビウは笑顔を浮かべ、キースもそれに答えて笑顔を返した。皆、沈んだりはしていない、ここで沈んでいても仕様がない。この男を除いては――。
「僕からみなさんに悪いお知らせがあります。フユちゃんを助けた時に、ソーサイアに僕の魔導力のほとんどが〈混沌〉に持っていかれてしまいました。移動魔導を使って皆をこの村に移動させられたのも奇跡に近いんだよね」
 〈王〉の力を受け継いでいるキロスは人間が使えないような高度な〈魔導〉も使うことができた。だが、彼の魔導力はフユを助けるために犠牲となってしまっていたのだ。今の彼には子供騙しのような魔導しか使えなかった。
 暗い表情をして独り言を呟くようにキロスがしゃべりはじめた。
「僕さ、昔は本当に駄目な男でさ、魔導士になれる才能はあったんだけど、ちっとも魔導士にはなれなくて、いろんな奴から莫迦にされて生きてきたんだよね。でもね、〈王〉の力を偶然にも少し貰ってからは超一流の魔導士として、人助けをしながら諸国漫遊していろんな人から感謝されちゃったんだよね。結構いつも一生懸命がんばったつもりだよ、でもね、本番には弱くて、どうにかそれを誤魔化そうとして、ふざけたり、カッコつけたりしようとしたけど、結局いつも駄目なんだよね。明るく振舞ってても、それって魔導のお陰でさ、今は不幸のどん底って感じ」
「私たちはすぐに旅立つ。ソーサイアの好きにはさせない、絶対にだ。キロスはここに残ってフユを看てやってくれないか?」
「……そうだね、うん、今の僕にできることは、それくらいだからね」
 キロスは笑って見せたが、少し暗い表情をしている。
 静かな眠りについていたフユの目がゆっくりと開かれ、小さな口から言葉が零れた。
「フユも行く。ソーサイアを倒してローゼンを救いたい」
「あんたはここでゆっくり休んでなよ」
 シビウの言葉には耳を貸さずにフユはベッドから飛び降りた。
「フユは、ソーサイアがどこにいるか、何をしようとしているか知ってる。フユはソーサイアの内にいる時に、ソーサイアの考えてることがフユの頭の中に流れ込んで来たの」
 全員の視線が小さな少女に集中され、少女は語り始めた。
「ソーサイアはこの星を全部呑み込もうとしているの。そのためにソーサイアはこの星の魔導が最も集まる場所を探し当ててそこに向かったはず。北の最果ての地の地面の奥底にソーサイアはいるの」
 話を聞き終えたキースはすぐに部屋を出て行こうとした。彼は少しでも急ぎたかった。ローゼンを救うために――。
 部屋を出て行こうとしたキースについて行こうとシビウとフユがすぐに追いかけ、その後ろからキロスの声がした。
「やっぱり、僕も行く。もう、ちょっとカッコつけてみようかな……なんてね」
 苦笑いを浮かべるキロスに三人は微笑を返した。誰もキロスが足手まといになるとは言って彼がついて来ることを反対しなかった。キロスは苦笑いを浮かべているが、その心の奥に三人は強い意志を感じたからだ。
 これがソーサイアとの最後の決戦であり、ローゼンを救う戦いであり、この世界を救う戦いであることを誰もが心の奥底で感じていた。

 フユが案内しようとしている場所は〈ガイアの臍〉と呼ばれる大空洞であった。その場所はこの星の最北端にあり、人間の足では決して辿り着くことはできない。そこで特別な道を使い、フユはキースたちを案内することにした。
 北の大陸にある幻想的な氷の森林。この森林の木は氷の中で育ち、生きている特別な木だった。その森林を抜けると、そこには古代人たちの遺跡があった。
 古代人、それは古い時代の精霊のこと。そして、その精霊たちの頂点に立っていた精霊こそが〈王〉であり、この遺跡は〈王〉の都であった場所だ。
「僕の中の〈王〉がここを知っている。〈精霊の君〉の攻撃を受けて滅びてしまった〈王〉の都。ここが〈王〉の美しき都だ」
 だが、今は岩や建物の材料であった二〇メティート(約二四メートル)もの大きさに成長する貝の貝殻の残骸しか残っていなかった。
 遠くを見つめるフユが先を指差し呟くようにしゃべった。
「この先に古代人が残した〈旅水〉あるの」
「では、早く行こう」
 キースは先を急ごうとしたのだが、後ろにいるシビウがついて来るようすがないので振り向き聞いた。
「どうしたのだ?」
 聞くまでもなかった。キースの目に映るシビウの肌は血の気が失せ、ぶるぶると激しく振るえ、唇の色は紫色に変わっていた。
「こ、この寒さ、どう、どうにかならないのかい?」
 震えた声を出すシビウはいつものように、素早さを生かすための露出度の高い軽装の鎧しか身につけていなかった。これでは寒いのは当然だ。
「シビウ姐さん大丈夫!? なんだったら、僕が抱きしめてあげようか?」
「あんたに抱きつかれるくらいなら、凍死した方がマシだよ! でも、しかし、何で皆は寒そうにしてないんだい、可笑しいじゃないか?」
 フユはとりあえず例外として、キースとキロスはいつもと同じ法衣を着ているだけだった。だが、この二人は事前に身体に見えない膜を張り、熱さや寒さから身を守る魔導を施していた。そのことに気が付いたキースはぼそりと呟いた。
「そうだった、シビウに魔導を架けるのを忘れていた」
 キースはすぐさまシビウに魔導を施した。すると、シビウの体温は平常時まで戻り、肌や唇の色が元通りに戻った。
「何でこんな便利な魔導があるのに、あたしに架けてくれなかったんだい!」